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魔術

     ……………


 外はするどい寒さにおおわれ、遠くでは爆発音や衝撃音が聞こえるありさまであり、一種の戦場のような状況かに思われた。


「はっはっは!

 皆、結構ドンパチやってんねー。おっ?」


 一足先に道路に出ていた天出仁は遠方を見つめながらそう言っていたが、ふと、路上に何かがいることを察知してそちらを見遣みやる。


 その目線の先には道路に倒れた女性らしき姿があった。


 ヨシノリはその女性の姿を見るなり、思わず近づこうと動くが天出が手を出して制止する。


「丁度いい、『魔力』の解説に利用しようか。

 ……まだ、『お客』が来るまで時間ありそうだし」


 そう言ってすたすたとその女性の下へ天出は歩き、しゃべりを続ける。


「魔術というものは古今東西のRPG同様に『魔力』を使う。

 コイツは生き物すべてが持っている思念のエネルギーみたいなもんだ。

 まあ、正確には物理-情報間エネルギーという感じなんだがそれはどうでもいい。MPだと思ってくれ。

 まほうのせいすいとかは使えないけど。

 あれ? そういやMPっていろんな所が使ってるけど、あのD&Dが許しているのかな?

 いや初出は違うか、初出あそこだったら著作権棍棒で誰も使えなくなってるもんな。少なくともアメリカ企業が初出ではないか」


 べらべらと小気味こぎみよく喋りながら、彼は右手を顔の近くに挙げる。ヨシノリは、その右手に何かオーラのような『感じるもの』があることを覚える。


「君は私があげた『お守り』のおかげで身体が魔力に慣れたんだ。『感じる』だろ?

 コレが魔力。

 コイツは普段体内の神経部分にあるようでねェ……。

 魔力に目覚めて知覚できるようになった後、ちょいと修練するとこうして体表に出すことができる」


 ヨシノリは右手に感じ取れるその『パワー』がボンヤリとした感触から、ハッキリとしたモノに移り変わっていく感覚、そしてその『パワー』が右手から左方向に動いていることを感じとった。


「ちょっとしたことさ、慣れれば簡単。

 絶とか練とか纏とか凝とかの四大行は後で頑張ってやればいいから。

 パクリって怒られるからそう言う名前でみんな呼ばないけど似たような技術さ。なんなら霊魂を操るとか別作品のも……。

 てか異能バトルって汎用性考えたりエネルギーだのリアリティ考えると結局念能力とかに似ちゃうからこの魔力の操作も似たようなものになるんだよな」


 喋りながら天出は道路に倒れる女性に歩いて近づく。


 女性は突如むくりと顔をあげ、這いずっているとは思えないスピードで距離を詰め始めた。


 ヨシノリは気づく、彼女の下半身は存在せず、血が滴っている。その姿は、いつか都市伝説か何かで耳にした『テケテケ』そのものだ。


「コロス!」


 絶叫のようにそう叫び、飛び掛かってきたテケテケに対して天出は脚にわずかな魔力を込めひょいと軽くジャンプする。


『グオン』


 だが、その足元では不自然な衝撃が発生。

 そのまま跳躍は二メートル以上に及び、飛び掛かるテケテケの跳躍をグオンと越え、くるりと宙で縦軸一回転、そのまま『テケテケ』の背後をとって着地する。


――立ったままの姿勢!

 足の裏だけであんなジャンプを!


 ヨシノリの驚きの中で天出は語る。


「っと、このように、魔力を込めるだけで常人以上のパワーが引き出せる。

 まあ、アレだ、漫画で言うところの気とか、念とか、クリプトナイトとか、チャクラとか、ソウルとか、霊子と、不死身不老不死スタンドパワーとか、究極生命体アルティメットシイイングとかそういう――」


 解説の最中、テケテケは振り向き、天出の脚を掴み、下半身を引きちぎろうと鋭い爪と握力を発揮する。

 だが、天出は鋼鉄の塊のようにびくともしない。

 彼は全くそれを意に介さず解説を続ける。


「――サムシングさ。

 まあ、他にも内臓や筋肉に使う事で身体能力や回復力、免疫なんかもパワーアップするよ。

 覚えたてで魔力の操作が下手だと常人の域を出ないけど、慣れればこのように『鋼の肉体』さ。

 宇宙忍者のガンロックよりかは生活しやすいがね。さぁ、解説終わり、どうだいわかったかい?」


 返答を求められたヨシノリは答える。


「実際的で簡潔な解説だな。無駄でわかりにくい冗談が無ければ」


 ヨシノリは呆れたようにそう言う。


 天出仁は彼の皮肉にニヤニヤと笑う。

 そして彼は脚を殴り続けるテケテケの頭に、スッと右手の人差し指で触れる。

 その指先に微弱ながら魔力が集中している様子がヨシノリには感じられた。


「あぴっ」


『ぷちっ』


 テケテケは軽い音を立てて頭が地面にめり込むように潰れた。


「すごいだろー、これ。『ミンチよりひでえや』てやつだな正に。

 言っとくけど今のもさっき家で見た『怨霊おんりょう』というモノの一種だ。

 ホンモノの人間の頭と同じくらいの硬さはあるし、何なら魔力で守られてる分もっと硬いまであるぜ。だが、私が人差し指にちょいと魔力を集中し力学的なパワーとして放出すると、このように絨毯(カーペット)さ」


 黒革の手袋にはテケテケの血が付いていたが、その血は存在がうすれ、透明になり消えてゆく。テケテケの身体も同じく消滅していった。


 ヨシノリにはあのテケテケが魔力によって造られた『虚像きょぞう』であることが感覚的に分かった。

 恐らくは先程、天出が解説したように、渡された『お守り』のおかげで彼が魔力に慣れ始めているせいで感じ取れるようになったのだろうとヨシノリは考察する。


「ただ魔力を……。操るってだけでそれだけ強くなるのか?」


「うん。

 まあ、アレだ。

 私の今のパワーは実際1グラムの魔力量だったんだが……あ、魔力の1グラムの単位系は特殊な奴だから質量表記とは違うぞ。分かりにっくいな。

 まあ、その1魔力グラムで大体TNT換算100gの爆発と同じくらいの衝撃を私は出せる。

 これはそんじょそこらの魔術師にはできない芸当でね。大抵の相手は指先ひとつでダウンさ。ホアタァッ!」


 お道化たようにポーズを取りつつ天出仁は自画自賛している。

 ヨシノリはその様子にますます彼の言葉の信憑性(しんぴょうせい)を疑問視する。


 その時、彼は何かを感じ取る。

 先程もあった『第六感』に近い、周囲から無数の視線を感じた。


「ンン〜。やっぱり集まってきちゃったみたいだねぇ」


 仁は手遊びに両手の指を組みながら関節を波のようにしならせて言う。


 彼のその言の直後、東西にのびる住宅街の道路の闇からそれぞれ10人ずつ程の『テケテケ』や女性の幽霊、妖怪……。

 そして身の丈3メートルはあろうかという白いワンピースを着た巨大な女性、正に『八尺様』と言える存在が4人、全速力で仁とヨシノリの下へ走ってきているのが見えた。


「な、なんだぁっ!?」


 驚くヨシノリと対照的に男は落ち着き払って言う。


「フン。有名どころばかりよく集まったモンだ……。

 だが、やはり妙に弱い。

 ちょいと彼女らの術式をまた見ておきたいなァ」


 彼はそう言うと胸元から何かを取り出す。


 ヨシノリの見間違えでなければ、それは『血色の良い、人間の切り取られた指』だった。


 天出仁はその指を額に当てる様な行動をしつつ呟く。


『|岡恋沫惚心中草子《片惚れ誣告の指切り遊び》』


 その言葉と共に彼の背後に先程見た花魁の『幽霊』が現れる。


 彼女は天出仁の背中に背を預け煙管を吸うような様子を見せている。

 対する天出仁も『指』を懐にしまいつつ、周囲の状況を見ている。

 その視野にはおぞましい怪異の集団が壁となり一斉に襲い掛かり、彼の喉元や身体に手を掛けようとしているところが映っている。


 ヨシノリは背後、西側の道から迫る怪異たちが自分の方に向かっていることを悟り、離れようと後ずさる。

 そんな彼の心配を無視して天出仁は語る。


「彼女は本来、一途いちずな人なんだが、これも経験と割り切ってくれる。

 私は良い友達を持った」


 彼は東より迫ってきた怪異らによる壁を右手で優しくなでるように触れる。

 その怪異たちはぴたりと静止して動かない。

 それは、彼ら全てを一度に抱きしめる巨大な花魁の霊が背後に現れたためである。


 天出仁の背後に居た霊がいつの間にか巨大化し、下半身を地面に透過しつつ怪異たちを抱きとめていたのだ。

 彼女の半透明な身体は無数の『言葉の紐』を内部に抱え、それらはそれぞれ怪異一体一体に鎖のように繋がっていた。


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