資料6 事情聴取記録
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北海道西羅牟町道道910号線上での交通事故、被害者男性ドライバー『千徳幸輝(32)』の証言記録
記録日:2022年9月28日
(記録開始)
担当者「二、三質問するだけです。事故の状況を知るためのものですからご安心を」
千徳「は、はぁ……。いえね、前に事故ったことありますけどその時はこんなの、なかったんで……。ねえ……」
担当者「実は周辺で別の事件がありましてね。疑っているわけではないのですが形式上どうしても……。
それに、何か妙なものを見たと聞いたものですから」
千徳「あー。そうですか……。
いや確かに何か事件に関わりがあったら大変だ。
でも、私もアレが現実とは思えないんです……」
担当者「落ち着いて。
夜でしたし、人を見間違えたり、それこそ動物がいてもおかしくはない。
そうした見間違えだったとしても何か事件に関係した情報が出てくるかもしれないので……。
一応順を追って話してもらえませんか?」
千徳「そうですね……。
私は19時30分くらいに事故る場所の辺りに差し掛かったんですが……。
そん時は特に急ぐ仕事でもないんで普通に運転してました。
いや、慣れない道で辺りも真っ暗なんで普段よりかは慎重気味だったかな。でも、あの曲がり角の前で……」
(数秒沈黙)
千徳「そうだ、ああ……。お、女の人を……。轢いた」
(千徳の呼吸が浅くなる)
担当者「落ち着いて、千徳さん。
あなたのトラックには血飛沫などは認められませんでした。あなたは何も轢いてはいません」
千徳「けど、おれは見た……!
道路に、横たわっている人が惹かれて、肉がはじける音も、骨が砕ける音も、フロントガラスにかかった血飛沫も……!」
(数秒沈黙)
千徳「そんで……。
慌てたおれは柵に車をぶつけちまった。慌てて外に出て轢いちまった人に駆け寄ろうとした。でも……」
(千徳が呼吸を乱す。)
千徳「何人も居た、何人も。
おれが轢いた女の人が、何人も地面に横たわって。よく見りゃみんな下半身がねえ。
バケモンだった。
おれは動き出しているそいつらから逃げようと車に戻った。
だけど、車の辺りには別の……。
3メートルぐらいある女が……。白いワンピースだった。デカい帽子を被った……。他にも居た、全員女だった。
畜生! なんだったんだ!」
担当者「囲まれたあとは?」
千徳「ああ……。おれはそいつらに、寄ってたかられて……。
そうだ、あれは……。
ああ、見たんだ『アレ』を」
(千徳の震えが激しくなる)
担当者「大丈夫です、千徳さん。
ここにはそれはもういません。ここは安全です。
私が保証します」
千徳「スイマセン……。でも、『アレ』は……。この世のものじゃない。
ああ、まだ瞼に焼き付いていやがる……! クソッ!」
(机をたたく)
担当者「話す事でも、恐怖は紛れると言いますよ」
千徳「ああ、そうだな……。
ありがとうございます……。
ええと、アレは……。うう……。何と、行っていいのか……。に、人間の……」
(数秒の間)
千徳「人間の、腕や、脚だった。
それが幾つも、苦しそうに蠢いて、何かを掴んだり、他の手足を蹴ったり、叩いたり、引き裂いたり……。しながら……」
(震えをおさえる)
千徳「アレは、赤ん坊だったような気がする。いや、女だったか……?
お地蔵みたいな、背中に木の幹みたいなものがくっついてる……。人間よりもずっとずっと大きな……。
人間の腕や脚でできた化け物……。
いや、あれは神様だったのかもしれん」
(何かに気づくように顔をあげる)
千徳「怒声や罵声が響いていて、あの化け物は蛆虫の塊のようにうごめいていやがったが……。
どこか神々《こうごう》しいというか……。
神様みたいな感じがあった」
担当者「それから?」
千徳「それを見てからは、背後から押し倒されて、地面に顔をぶつけて……。
そっからはよく覚えてないす……。
気づいたら警察の皆さんのご厄介になってました」
担当者「なるほど……。
他に何か覚えていることは?」
千徳「いえ……。
あの、俺は大丈夫なんですかね? 病院とかには……」
担当者「ああ、お待ちください、最後に一つ」
(担当者による記憶操作魔術の実施。記憶処理完了)
千徳「……。あれ?」
担当者「これですべて終了です。
どうもご協力ありがとうございました」
千徳「ああ、どうも。でも大した情報じゃなかったでしょう?」
担当者「まあ、形式的なものですから。ちゃんと通常の事故として処理させてもらいます」
千徳「ああ、そーですか……。それじゃあ」
担当者「ええ、今日はどうもありがとうございました」
(記録終了)




