資料20 秘匿物品番号2022634EAJP 補記映像資料1
……………
この映像資料は秘匿物品番号2022634EAJP、物品通称『無貌の神の犠牲者』に関連する資料です。
映像の記録日時は2022年11月9日1時45分から2時00分までの15分間に及ぶものであり、本映像記録は秘匿物品2022634が変質前、『司城純二(日本国籍、25歳、男性)』であった際に記録されたものです。
本映像記録へのアクセスには秘匿保障委員会派遣員もしくは秘匿保障委員会委員による許可申請が必要です。
―――――
(2022/11/9/1:45:13 映像記録開始 森の中、男性がカメラに向けて顔を映して話す)
「はい、どうも皆さんおはこんばんにちは、ホラーウォッチャーのシシロです。今、緊急で動画まわしてるんですけども」
(カメラが街を包む黒い結界を映し出す。撮影地点は草木が茂る小高い丘)
「見えますかね、この黒いドーム! コレ、災害があったってみんな避難している西羅牟町の様子なんですけども。分かります? こんなヤバい光景。道とかも封鎖されて、警察に自衛隊まで来てますからね。強制送還だのしてますよあっちで」
(顔を再び映す)
「この衝撃の映像ネタ、皆さんどこから湧いたのか気になりますよね? わたくし、都市伝説情報共有しているSNSのサーバーでこの情報をキャッチしたんですけども、そのサーバー、これ、観てくださいよ」
(スマホの画面を映す)
「見えるかな? コレ、スクショなんですけども、こういうやり取りがあったのをたまたま一部スクショしてたんです。そしたらですよ、コレ、消えてる。しかもサーバーの人が誰も不審に思っていない。特にDMしてもサーバーで呼びかけても『そんなの知らない』の1点張りですよ! ヤバくないですか?」
(顔を三度映す)
「というわけで、このアヤシイ現場、わたくしホラーウォッチャーとして見逃せないので直撃取材! 激ヤバ陰謀渦巻く北海道西羅牟町をウォッチング!」
(カメラを持ちながら木々をゆっくりと抜けていく。)
『ズガァアアアアアアアアアン!』
(突然の轟音にカメラがぶれるがすぐにその音の方向へ向けられる)
「ヤバ、やばい……。揺れるじゃん……」
(カメラのズーム。木々の間に映る道路。走って建物の間から出てくる人影、赤い衣のようなものを纏い、顔は皮が剝がされ、肉と血、そして狂気とも言える笑み。その瞳はカメラを見定めていた)
「はっ……」
(撮影者が息を止める。しかし、赤い衣の人間は笑みを浮かべながらこちらへ真っすぐ迫る。距離は数百メートル以上はありながら真っ直ぐと向かう。)
『カァァン!』
(金属音と共に赤い衣の人間がその場に倒れる。倒れた事で背後に居た、やや背の低い金髪の青い目をした少年が画面に映る。ぼやけながら映し出された彼は片手に奇妙な突撃銃のようなものを持ち、サイズがぴったりのナチスSSの軍服を着ている。)
「その……。なんだ……? 子供、軍服?」
「いいところに居た、贄。揃うぞぉ……。揃う。くくくくくく」
(カメラが動く。別の人間の声。映し出される顔の皮が剥がれた赤い衣の人間の、表情の無い、しかし笑みとわかる表情。)
「あ……! かっ……! た、たすけ……」
「無貌の神の祝福あれ! 皮膚なきものに贄を捧がん!」
(顔の皮が剥がれた人間が奇妙な呪文を唱える。カメラが落ちる。カメラに映る撮影者の姿は、金縛りにあったようにその場に固定され、先程叫んだ赤い衣の人間の奇妙な呪文が終わるまで固まる。)
「あ、ああぴ、ぴぴぴっ……。あ、ああああ、あああああついああああつあついいいいいいあああああ!!」
(撮影者は痙攣しながら苦悶の表情を浮かべ叫ぶ。撮影者の顔の皮がするりと剥がれ、首、胸、腕、腹、脚と皮がつるりと顔の部分より抜けてゆき撮影者は服を着たまま身体の皮全てを剥ぎ取られる。)
『ズガガガガガガガガ!』
(撮影者の遥か背後より閃光。同時にどさりと倒れる音。画面外で赤い衣の人間が銃弾のようなものに撃たれて死んだらしく、赤い衣の端が画面端に映りピクリとも動かない。)
「あああおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
(皮を剝かれた撮影者が叫び続ける。どこからともなく、『皮の無い肉片』が撮影者だったものに飛び込み、粘土のように纏わりついて撮影者だったものの体積が増えてゆく。)
『小賢しい結界にぃ……。南極卿の手の者たちぃ……。煮詰まった鍋に蓋しても、無意味だと分からんのかァ……!』
(撮影者だったものが、今までにない、何人もの人間が重なったような声を響かせる。それは男の声でもあり、女の声でもあり、高くもあり低くもある声である。『撮影者だったもの』は既に人間とは異なる骨格、異なる筋肉配列の巨大な『何か』に変貌しつつあった、それは姿としては人間の形に近かったが皮膚が存在しないこと、そして頭部と思しき部位に無数の瞳がある事が全く人間と異なっていた)
『ドガァアアアアアアアアン!』
(歪な形を膨らませつつあった『撮影者だったもの』の胸部が吹き飛ぶ。その風穴の先には戦車のような、6メートル大の2足歩行兵器が肩に付けた砲を向けて立っている。2つの腕部にはそれぞれ大口径機関銃と爆発型金属杭打ちが備わる。)
『新しい棍棒だろうと、無意味よ』
(『撮影者だったもの』は即座に穴をふさぎ、立ち上がる。だが、その動作中も戦場の如く無数の発砲音と砲撃音、そして人の叫びが聞こえてくる。撮影者だった巨大な肉体は時折、身体の随所に穴をあけながらも全くそれを気にすることなく立ち上がり、ゆっくりと歩きだす。)
「舐めるな!」
(巨大な肉体の背後に突然、二人の人間が現れる、片方は先程カメラに映った金髪の少年で突撃銃を構え、発砲しながら肉体へと近づく。もう一方は上半身裸体のガスマスクを付けた男で身体に無数の鎖を巻いている。その鎖は巨大な肉体へと各々独立し生き物の如く向かっていく。)
『バチャチャチャチャチャ……』
(少年の銃撃は巨大な肉体に的確に撃ち込まれるが、肉体は全く気にする様子無く、振り向くような動きで腕を振る。それによって凄まじい轟音と共に衝撃波が発生。地面にあったカメラも吹き飛んで行く。)
『スパァアアアアアアン!』
(カメラは夜空や地面を映す。ドームに覆われた街、丑三つ時近くで漆黒に塗られつつある夜空、あちこちに意味深な血痕が残る道路や野、空から降りてくる月に照らされた巨大なヒキガエルのような化け物たち。そして、カメラは地面に落ち、映像はそこで終了する)




