耐久試験
……………
折口は天出仁へ攻撃が直撃したことを確認し魔術の出力を最大へと引き上げる。
――一度とらえたのなら、離さない! ここでありったけ削る!
呪いの根源を断てば! ミサキだって! 戻ってくるはず!
しかし、その攻撃の最中、巨大な甲虫となったヨシノリは走り出す。その甲虫の姿はやや人型のようにも見える姿となっていた。彼の感性、パワー、防御能力はまるで人間大の巨大甲虫が如く跳ね上がっている。
彼の異常発達した感覚器と自然に適応した感性は天出仁の行った『イカサマ』……。結界によって隠された瓦礫で折口のレーザー攻撃のクリーンヒットを避けきったことをいち早く見抜き、天出が更なるイカサマをしでかす前にヨシノリは動き出したのだ。
――なんて身体の軽さ! なんてパワー!
天出仁の動き、魔術が感じる!
この『結界』の中でも、周囲数メートル程度はおれの手中だ!
この力で天出仁を倒して、ミサキさんたちやおれの家族を……!
虫の這い回る疼きの中、彼は経験したことのない万能感が押し寄せていた。その疼きさえもわずかな痺れと快感になりつつあるように思えた。
彼の拳が光線の中から何の抵抗も無く、防御も無しに飛び出す天出仁に飛び込んでいく。だが、天出仁はそのことを知っていたかのように笑って言う。
「予知相手は戦いの組み方で勝たなくちゃぁね」
その言葉と共に彼はガクンと倒れるように姿勢を崩す。ヨシノリの拳は空を切り裂き、破裂する音が響く。
すぐにヨシノリは蹴りを繰り出す。やや姿勢は崩れていながらも鋭い蹴りが天出仁の脇腹を捉える。だが、ヨシノリは天出の背後にルーレットが輝いていることをその時覚る。
『ギャッハッハッハ! 大当たりィッ! 『偽即身仏』だぜええええッ!』
「それは重畳」
そう言ってニヤリと笑う天出の顔にヨシノリの鎧の如く硬質な足による蹴りがしっかりとぶつかる。しかし、その攻撃の衝撃は魔力操作によりガードされ、同時に天出の背後に即身仏が出現。予備動作なくヨシノリ達を石の嵐が襲う。
その嵐は、『愛の手』の結界によってどこに存在するのか、天出仁と能力が向上したヨシノリ以外には知覚することも見ることもできなかった。
ヨシノリの追撃に向かっていた心念は見えざる嵐によって身体の防護魔術が削り取られて行く。折口も魔術を解除し防御姿勢に入るよりも前に嵐の攻撃を全身に受ける。
ヨシノリはただ一人、その鋭敏な野性的感性によって結界内であっても見えざる石の嵐を知覚する。その身体能力によって嵐の雨が如くぶつかってくる瓦礫を一部避け、ぶつかりくる瓦礫はその硬質な装甲で受け止める。
当の天出仁はその嵐の最中で瓦礫が彼だけを避け、彼が距離を取る行動をサポートする。
ヨシノリは瓦礫の雨に打たれながら、疑惑の怨敵を必死で追いかける。
その行動の裏には彼の耳に入ってくる『ある情報』があった。
『ヒャハハハハ、気になるようだから一応言っとくぜェ! 今、アイツの『本家ラッキー38』の能力は『反撃型』魔術になっている。天出が魔術発動時に振ったサイコロの出目のせいだ。そのおかげで『偽即身仏』の効果対象の中心はお前になってる、つまりこの嵐の標的はお前っ! お前が動けば嵐の目も動く! 動いた方がいいぜえ? お仲間が死んじゃうからヨォ! ギャハハハハハハハ!』
ヨシノリはその話を聞き、天出仁がどんどんと遠ざかることに内心安堵しつつ、何か引っかかるところがあった。
――どうも奴に転がされている感がある。この能力も奴のもの、この街の惨状も、そして、おれがまだ『肉塊』となっていないことも……。
何故奴はあの場に留まって他二人にとどめを刺さなかった?
何故奴は無軌道に逃げている?
さっきおれが戦ったように、回避し続けていればもっと理想的な状況が出来上がる筈だ。
何かが、おかしい。
その疑念を嘲笑うかのように天出仁は突然立ち止まって、ヨシノリを見てニヤッと笑う。
「耐久試験、その二だぜ? しっかり耐えてくれたまえよ」
彼はそう言うと背後の襖を開き、その奥の闇へと入っていく。
ヨシノリはそれを追い、部屋の中へと入る。
そこに居たのは土御門シュウメイ。
その頭部には目も口も耳も鼻も無く、ポコポコと湧き上がる水疱に包まれ、完全に肉塊となり果てていた。




