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変身

     ……………


 その頃、ヨシノリは突如放り込まれた謎の日本邸宅の一室で心念、折口の二人と共にその場で膝をつき、全身を走る激しい痛みに身動きを取れずにいた。


――なんだこの痛みは……!?

 焼けるような、刺すような……。おれの胸に現れたこの腕のような像。そこから流れる血がその痛みを生み出している!

 これがこの結界の能力!

 そして、天出仁が操る呪物の能力ということか……!


 ヨシノリは心念と折口が立ち上がるのを見る。そして彼は、立ち上がる気力も湧くことがない自分の状況に怒りを覚える。


――ダメだ!

 このままだとここで足手まといになる。最悪人質にでもなればさらに状況は悪化する。そのことで誰もおれを責めなくとも、また誰かが死ぬことになるかもしれない!

 そんなことは……。おれが許せない!


 ヨシノリは迷いなく魔力をペンダントに注ぎながら、痛みに震える膝を立て、立ち上がる。全身から汗が吹き出し、数時間前に覚えたばかりの魔力操作もおぼつかない。

 数時間前、この魔力操作を解説し手ほどきしたのは天出仁。そして、彼が頼る『力』であるペンダントを与えたのもまた、天出仁。

 与えられた力を与えた相手を倒すべく使う。その愚かとも呼べる行為の危険さはヨシノリも重々承知の上。


――このペンダントにまだまだ奴の仕掛けが施されているかもしれない。それによって不利が生じるかもしれない。だが、おれはこのままでは足を引っ張る。

 これは賭け。

 奴がもし、ペンダントに細工があり、おれが精神を操られるような最悪の事態が起きれば、その責任は全ておれに降りかかる。

 そうなれば、おれは、一人生き残ったとしても永遠に悔やむだろう。

 いや、死を選ぶだろう。

 だから、おれは命を賭けて、この選択をする。


 彼は激痛をはねのけるように立ち、ペンダントに魔力を込めた。

 彼の決意と対照的にギラギラとした輝きを放つルーレットが回りだす。


『フゥウウウウウ! 運命のルーレットが回るぜえええええ! オメーの命は今このルーレットに賭けられたァっ! 死ぬ、死ななーい、死ぬ、死ななーい、死ぬ、死ななーい、死ぬ! 死ぬ! 死ぬッ! 死ななーい……』


 うざったい声が響きながら、ルーレットの絵柄はゆっくりと揃っていく。

 ヨシノリの脳裏に走る激痛がそう感じさせるのかもしれないが、彼はそこまで考えるほどの余裕はすでになかった。


 揃っていく絵柄は、未知のもの。


 虫が無数に這い回る絵柄であり、おおよそ『良い』ものとは思えない。

 心念や折口は振り返り、その絵柄を見た次の瞬間、ヨシノリの身体に無数の虫が這いあがり、そして背後に巨大な虫が現れる。

 ヨシノリはその虫が這いまわる感触に支配されていたが、不思議と痛みは消えかけている。

 折口はヨシノリの身体を覆う虫がゆっくりと存在感を失っていくのを見る。そして彼の背後に存在する巨大な鈍い光を放つ甲虫は強力な魔力を放ち続ける。


「ヨシノリさん……?」


 ヨシノリは自身の魔力が向上していることを感じる。彼は計り知れないパワーと魔力の感知感覚を無視が這い回る感触の中で感じ取る。


「大丈夫です、どうやら身体能力を強化する術だったようで、力が溢れる感覚が……」


「す、姿が……!」


 折口と心念の目にはヨシノリの姿が這い回る虫たちと共に薄れてゆき、背後に現れた巨大な甲虫と一体となる事で、完全に甲虫となる。


『ヒャッハッハハハハ! やべーの引いたなゴシューショーサマ! そいつは『|いつでも《Die Verwandlung》』って『呪い』だぜ? めちゃめちゃ身体能力が上がるが徐々に精神が『虫』になっていく。コイツは伝染する呪いでなぁ、さらに伝染のメカニズム、精神汚染が完了する時間、呪いの力で向上するパワー、全てにおいてランダム! 誰にもどうなるかわからない! 天出お気に入りの『呪い』なんだぜ! ま、魔術を解除すりゃ全部解除されるが……。オメーにそんな余裕ねえからな! 頑張りなぁ~! ヒャハハハハハ!』


 この解説の間も絶え間なく虫が身体を這い回る感触に支配されるヨシノリは、徐々にその感触が肉体の内部に入り込んでいっている様な感覚を覚えた。そして、その狂いそうになる感触こそが『精神汚染』のキモであり、同時に、その汚染が進むほど力が向上する感覚も感じ取った。

 

――いや、これでいい。これがベストの魔術だ……!


 彼の決意と根性に燃える瞳は部屋の奥へと向けられる。心配した様子の心念と折口は虫となったことで彼のその視線がややわかりにくかったが、何かがある事を察し、彼の向く方を見定める。そこにはゆったりと歩いて来る天出仁の姿があった。


「良い根性の座り方だ……。やっぱり君は『素質』がある」


 天出仁は真っ直ぐヨシノリを見てそう言う。その顔に浮かぶ笑みはほっと安心した様子で、先程まで戦いにあった者とは思えない。

 だが、折口は先程先行した三人の事を思い、臨戦態勢で彼に向かい叫ぶ。


「他の人たちを……!」


 独特の歩法により一気に距離を詰め、目にもとまらぬ速さの抜刀を天出仁の身体へと滑り入れる。

 だが、天出仁は完全にそれを予期し刃をすんでのところで避けきる。


「空間操作術。刀身に空間を切り取る術を付与しているねえ。条件は抜刀の初太刀である事かなぁ~?」


 折口は術を看破されながらも落ち着きはらって、一気に背後へ退き呪文を詠唱する。


『快刀乱麻、汚れなき刃の煌めきがあなたを撃つ』


 刀身の輝きが煌めき、薄暗い室内に閃光が放たれる。天出仁は詠唱前から何かを覚り動いていたがその一筋の光はしっかりと天出仁の胸を捉えた。


『カッ!』


 天出仁にレーザーが照射される。家屋の柱と襖を吹き飛ばし、強力な熱線が天出仁の身体を包み込む。


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