第四十五話 焼き芋の里爆誕
ニッケル男爵領を観光地化する作戦は、お試しでまずはやってみようということになり、準備は急ピッチで進められた。
メインは焼き芋掘りもできる焼き芋畑だ。
「サツマイモを掘れるところはあっても、焼き芋が掘れるところは他にないからね」
ニコニコしながらハーランド公爵は言っているが、一番の見どころは彼ではないかとアデリアは思っている。
「王都での宣伝は、国王の協力も得て、しっかり行っているよ。期待してね」
ハーランド公爵はそういうとウフフと笑った。
今日も安定の美形は、キラキラしている。
(芋畑と美形。なんというギャップ)
アデリアは焼き芋の甘い香りに包まれながらクラクラした。
「焼き芋完売を期待して、まずはプレオープンということで様子を見ましょう」
ティンドルの提案で、今回は一時的な開催ということにした。
「そうだね、ティンドル。本格的に営業するとなると、焼き芋が足りなくなるものね」
「そうなのです、旦那さま。飲食店を営業するとなると、継続的に焼き芋を供給しなければいけません。そう考えると今は少々、準備不足です」
「料理の提供やお会計などのオペレーションも、実際にやってみないと分からないですものね」
イルダの言葉にティンドルがウンウンと頷いた。
「ニッケル男爵家の方も、お手伝いしてくださる領民の方々も、有能なのは分かっておりますが。実際にやってみないと分からないですからね」
「設備の配置とか、魔法道具だから簡単に変えられるとしても、正解が分からないと改善のしようがないもんな」
ライアンがワハハと笑いながら言うのを、周りにいる人たちはウンウンと頷いて聞いていた。
魔法道具を使って、売店や休憩室、ティールームなど、畑の周囲に建物を設置したり、魔獣肉の串焼きの下ごしらえなど必要なことをバタバタとしているうちに観光農園焼き芋畑のプレ開催の日を迎えてしまった。
「うわぁ、思っていたよりもお客さまが多いわ」
「そうだね、アデリア嬢」
ニッケル男爵領に作られた『焼き芋の里』と名付けられた観光農園には、王都住まいの貴族や商人たちが押し寄せていた。
園内には焼き芋が埋まっている畑に、魔獣肉の串焼きを売る売店、虫よけや害獣よけに使える魔石などを売る土産物店、ティールームなどがある。
それらの施設は開店と同時にごった返して大盛況だ。
プレオープン特別企画として用意されたライアンによるドラゴンに乗るアトラクションの前には長蛇の列が出来ていた。
ハーランド公爵は目を丸くしてその光景を見ていた。
「ここまで好評とは。凄いね」
「うふふ。ハーランド公爵さまのおかげです」
アデリアが上機嫌な笑顔を浮かべると、なぜかハーランド公爵の頬が赤く染まった。
「いやいや。アデリア嬢が頑張っていたから」
「そんな、わたしは頑張ってなんて……」
「ほら、あそこを見て。あれは学園の卒業生一行ではないかな?」
「あら?」
ハーランド公爵に言われて見た先には、学園で共に学んだ令嬢、令息たちがたむろしていた。
「あっ、アデリアさま~」
「遊びに来ましたよ」
「ついに芋魔法を習得されたのですねっ」
「しかも焼き芋にして提供されるとは素晴らしいです」
「このあたりに漂う甘い香りにも期待が高まりますわぁ~」
「ドラゴンに乗れるアトラクションにもワクワクしますっ」
令嬢、令息たちもアデリアに気付いて、それぞれに手を振ったり、会釈をしたりして挨拶をした。
「ありがとうございます~」
アデリアはホクホクした笑顔で同窓生たちにお礼を言った。
観光農園のプレオープンは大成功のうちに終了し、皆はそれぞれに将来のプランに胸を膨らませた。