第四十二話 ホカホカの焼き芋
「焼けちゃったね」
「ええ、焼けちゃいました」
翌日。
ハーランド公爵とアデリアは、仲良く並んで焼け焦げた畑を眺めた。
「魔獣も捕まったし、悪党2人組も捕まったけど……焼けちゃったね」
「ええ。焼けちゃいました」
あたりには美味しそうな甘い匂いが漂っている。
「まぁ……また作るからいいです。コツはつかめましたし」
「そっか。アデリア嬢は強いな?」
「そうですか?」
アデリアはへへへと笑った。
(貴族らしくない笑い方だけど。こっちが素のわたしだもん。もうどうでもよくなっちゃった)
泥だらけになりながら火事を消して、魔獣を捕まえた2人には、奇妙な絆が生まれていた。
「昨夜の活躍は凄かった。サツマイモを見事に育てただけではなくて、魔獣に相対しても肝が据わっていて、凄かったよ」
「そうですかぁ~」
褒められて嬉しくて、アデリアはだらしない笑顔を浮かべた。
(わたしはわたしでしかないもの。気取っても仕方ない。どうせ形だけの婚約者だし。怒られたら怒られたときのことよ……)
そんなアデリアを、ハーランド公爵は眩しいものを見るような表情を浮かべて盗み見る。
甘い香りに包まれながら、無言で畑を見ていた2人の後ろで突然ティンドルが声を上げた。
「あまぁ~いっ!」
ビクッと飛び上がるほど驚いて2人が振り返ると、ティンドルが齧ったサツマイモ片手に感動で震えていた。
「ど、どうした? ティンドル」
「何か悪い物でも食べましたか?」
「いえいえいえ、違います。このサツマイモです」
ティンドルの手元には、まだ土のついたサツマイモがあり、足元には掘り返したような跡があった。
「えっとですね。甘い匂いに耐えられず、もしかしてと掘り返してみたら……ほら、みてください。ホッカホカの焼き芋ですよ、コレ」
「「え?」」
アデリアとハーランド公爵はティンドルの手元を覗き込んだ。
「確かに見た目は美味しそうな焼き芋だけれど……食べて大丈夫なものなのか?」
「ええ、そうですよ。消火剤も撒いたし、そもそも土に埋まっていて……食べても大丈夫ですか?」
「私、鑑定できる能力もあるのですよ。旦那さまへお出しする物に毒物が入っていると困るので、常日頃から食べ物の鑑定をしているのです。チェックしてみましたが、この焼き芋に悪い成分は入っていませんよ。ただ……甘くて美味しくて止まりませーん」
ホクホクしながら焼き芋を食べているティンドルに気付いたソフィアが、ピッドと共に駆けてきた。
「おいもーおいもー、おいしそー」
「ギャンギャンギャン」
「ふふふ。ソフィアさまも食べますか?」
ティンドルに問われて、ソフィアはコクコクと頷いた。
足元ではピッドが跳ねまわっている。
「うんっ! 食べるっ!」
「ギャンギャンギャン」
ティンドルは足元からサツマイモを掘り出すと、浄化魔法をかけて綺麗にして、紙をサッと巻いてソフィアに渡した。
「あっ、まだ温かいっ」
「熱いくらいですからね、その紙で調整していますから気を付けて。フーフーして冷ましながら食べてください」
「あぃっ。フーフー……ん、ん、ん、あんまぁ~いぃぃぃ」
一口食べたソフィアが感動で震えている。
その足元では、ティンドルに焼き芋を分けてもらったピッドも同じようにプルプルと震えながら食べていた。
「アデリアさま、旦那さまも、食べてみますか?」
ティンドルに言われて2人は頷いた。
そして渡された焼き芋をフーフーしながら食べて感動に震える。
「うわぁ、甘い焼き芋だねぇ。こんなに甘いのは初めて食べたよ」
「え? あまっ。なぜ?」
ハーランド公爵は、甘さに驚いているハーランド公爵の横で、アデリアは、ハーランド公爵に焼き芋なんて食べるのですか? と突っ込むのも忘れてサツマイモの味に感動していた。
(魔法で育てたサツマイモだから? それとも畑で焼くと美味しくなるの? えっ? でも焼いたら土がダメになっちゃう。どういうこと?)
アデリアは理由が分からなくてポカンと畑を眺めた。
「私、移動させないなら鮮度保管の魔法が使えますので。この一帯を鮮度保管機能付きパントリーみたいな形で保存しときますねー」
ティンドルはウッキウキしながら畑に魔法をかけている。
「ん~、これはもしかして……」
ハーランド公爵は、何かを思いついたようで畑を見つめた。
そして魔法をかけ終わったティンドルを伴い、別荘へと帰っていった。