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第四十話 火事

 ニッケル男爵家の一同は、サツマイモ尽くしの夕食に舌つづみを打っていた。

 イルダが腕を振るって作った料理は家族に好評で、上機嫌な彼女は嬉しそうに料理を振舞っていた。


「おいしー。お替り!」

「たっぷりあるから沢山食べてね、ソフィア」

「うん」


 ソフィアは、そのなかでもサツマイモを使ったシチューが気に入ったようだ。

 イルダにお替りを付けてもらったソフィアは、楽しそうにスプーンを皿に入れた。

 アデリアやライアン、サミルも次から次へと料理を平らげていく。

 ピッドも用意してもらった味付けをしていないサツマイモをご機嫌でパクパクと食べていた。

 最初に外の異変に気付いたのは、そのピッドだ。

 皿から顔を上げると、ヴゥーと唸り始めた。


「どうした、ピッド?」


 ライアンが異変に気付いて、ピッドが警戒している理由を探した。


「ん? 焦げ臭い?」

「あら、火は止めたわよ」


 イルダは不服そうに言うと、ライアンは首を振った。


「いや、家のなかじゃない。外だ」

「外?」


 サミルが怪訝そうにしながらも、外の様子を見るために食堂から玄関の方へ出ていった。

 

「何かしらね。確かにきな臭いかも」

「ん、そうだな」


 アデリアが首を傾げると、ライアンが相槌を打つ。


「きなくちゃい?」

「ギャウギャワンッ!」


 ソフィアが首を傾げると、ピッドが激しく吠え始めた。


「大変だっ!」

「どうしたの?」


 慌てて戻ってきたサミルにイルダが聞いたが、その答えを聞く前に、少し遅れて部屋に入ってくた焦げ臭いにおいに一同は騒然とした。


「火事だ! 畑が燃えている!」

「なんだって⁉」


 サミルの言葉にはライアンは叫んだ。


「大変!」

「早く外へ……ピッドがどっかへ行っちゃわないように抱いてて」

「あいっ!」

「ギャンギャン!」


 イルダは叫び、アデリアは指示し、ソフィアはピッドを抱きあげた。

 ピッドはソフィアの腕の中で手足をバタつかせ声を上げながら、外とソフィアを見比べている。


「こっちまで火が来ることはないだろうが、念のため外へ」

「ええ。さぁ、みんな避難して」


 皆でバタバタと外へと出ると、少し離れた場所にある畑から火の手が上がっているのが見えた。


「あー、アレはマズイな」


 ライアンが呟くのにアデリアは頷いた。


「ええ。アレは魔獣の放った火ね。普通の水じゃ消えないかも」

「ギャウンギャウン」


 同意を伝えるようにソフィアの腕の中でピッドが暴れた。

 アデリアは彼の意図が分かったが、その上で言う。


「魔獣の火は魔獣の火で消せるけど、あなたは小さすぎる。ソフィアと避難して」

「ええ、そうよ。一緒に避難しましょう」


 イルダはピッドの頭を右手で撫でながら、左手をソフィアの肩に回した。


「ハーランド公爵さまの別荘がある方角なら安全だろう。あっちへ行っててくれ」


 サミルの指示に頷いたイルダは、娘を抱くようにして目的地へ向かった。


「わかったわ、あなた。さぁ、行くわよソフィア」

「んん~、わかった」


 ソフィアは火の手が上がる畑を気にしつつ、暴れるピッドを器用に抱いて母と一緒に避難していった。


「火を消すぞ」

「「はいっ」」


 ライアンとアデリアは、サミルの後に続いた。

 ライアンが口笛を吹くと、ラヴィがバサバサと音を立てて飛んでくる。


「消せるかどうか分からないけど、ラヴィも連れていく。いざとなったら、ラヴィに乗って逃げよう」


 ライアンの言葉にうなずきながら、アデリアとサミルは走った。

 畑に向かう途中でハーランド公爵とティンドルに出会った。


「大丈夫ですか⁉」

「ああ、ハーランド公爵さま。我が家の者は無事です」


 ハーランド公爵に問われて答えたサミルに、ティンドルが伝える。


「消火のための魔法道具(マジックアイテム)を持ってきました」


 ティンドルが取り出した魔法道具(マジックアイテム)を見たライアンが言う。


「ああ、それではダメです。あれは魔獣の火ですから……」

「え⁉ ちゃんと言ったのに」


 ハーランド公爵は驚いて侍従を見た。


「あぁ、間違えてしまいました。戻って取ってきます」

「ああ、頼む」

「よろしくおねがいします」


 ティンドルは慌てて別荘へと引き返していった。


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