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第三十八話 幸せの予感

 サミルの提案で、自宅とは少し離れた場所にある畑へ本格的な作付けをすることになった。

 作付けとなると1人では大変なので、その日は一家総出の作業となった。

 日の出と共に起きた家族は、朝早くから畑へと向かった。


「アデリアも、ようやく一人前ね」

「もう、お母さまってば。恥ずかしいわ」

「ははは。作るのはサツマイモだがね。ははは」

「お父さまの揶揄い方は意味不明よ?」


 よく分からないが両親も嬉しそうなので、アデリアも嬉しくなった。


「オレはラヴィと王都へ行かなきゃなんないから、あんまり手伝えないかもしれないけど。期待してるよ、アデリア」

「ありがとう、お兄さま。頑張るわ」


 ライアンは右手を軽く握ると、グッと親指を上げた。

 アデリアも右手を軽く握って、グッと親指を上げて返した。


「お・い・もっ♪ お・い・もっ♪」


 ソフィアに至っては、跳ねながらご機嫌だ。

 隣ではピッドも跳ねながら歩いている。

 畑は到着してみれば草が生い茂り、土も固くなっていた。


「こっちを使うなら、ココの手入れをしておけばよかったぁ~」

「はは、コッチは魔石もそのままだからな。仕方ないよ。いまさら後悔しても遅い。手伝うからみんなでやろう」


 アデリアが嘆くと、ライアンが気楽な様子で言った。


「そうよ、アデリア。みんなでやればすぐ終わるわ」

「今晩はサツマイモ尽くしだな」


 イルダが励ませば、サミルは揶揄うといった調子で賑やかだ。


(我が家はいつもこんな感じよね。わたし、肩に力が入りすぎてたみたい。とはいえ、肩の力を抜くのも大変なんだもの。ハーランド公爵さまさまだわ)


 アデリアは肩を上げたり下げたりして肩から力を抜く体操をしながら作業に取り掛かった。

 草取りから始まった畑仕事だが、手を使って直接抜くわけではない。

 魔法を使いながらの作業になる。


「アデリアの魔力量があれば、このくらい一気に草刈りできるようになるだろう。早くそこまで出来るようになっておくれ」

「あら、あなた。そうなる前に、アデリアはお嫁に行ってしまうかもしれませんよ」

「それは手痛い戦力の喪失だっ!」


 父と母の冗談を聞きながら、アデリアは笑顔で魔法道具(マジックアイテム)に魔力を注ぐ。


「ここは魔石がそのままになっている畑だから、小型の魔法道具(マジックアイテム)しか使えないが。アデリアの魔力があれば、どうにかなるか」

「ふふふ。そこは大丈夫だと思うわ」


 魔力を注いだ魔法道具(マジックアイテム)を両親に渡したアデリアは、紫のローブの胸元から何かを取り出した。


「土を反すときに、コレを混ぜましょう」

「それは何だい?」


 ライアンが興味深げに覗き込んだ。


「黒砂糖とツルで作った肥料よ。事前に撒いておいたほうがいいとは思うけど。魔力量の調整ができるようになったから、イケルかなぁ、と思って」

「ふぅ~ん」


 アデリアの説明に気のなさそうな返事をしたライアンは、魔法道具(マジックアイテム)を使って草刈りをしている両親を手伝うために行ってしまった。


「魔法を使った農業はスピーディでいいね」

「我が家で、これだけの魔力量があるのはアデリアだけだから」


 ライアンとイルダが話していると、横からサミルが口をはさんだ。


「いや、ソフィアもなかなかの魔力量だぞ?」

「えっ⁉ そうなの⁉」


 驚くライアンにサミルは呆れた顔をして「気付いていなかったのか?」と突っ込んだ。


「何もない幼児に、魔獣があんなになつくわけないだろ?」

「そりゃそうだけど。オレと同じくらいだと思ってた」

「お前はテクニックがあるから。ソフィアのアレは天然だ」


 父の言葉に、ライアンはショックを受けている。

 アデリアは、そんな家族のガヤガヤした会話をなんとなく聞きながら、作業の終わったスペースから、土を返し始めた。

 肥料を混ぜ込みながら土を返し、魔力を通して整えて、今度は種イモを置いていく。

 そこに魔力を注入していけば、みるみるうちにツルが伸び始め、耕したばかりの畑の上を這い始める。

 それに気付いたライアンは慌てた。


「あ、ヤバイ。ツル。ツル返ししないと」

「ああ、そうだな。まだアデリアの魔力調整は甘いようだ」


 ライアンとサミルが魔法道具(マジックアイテム)で慌ただしくツル返しをする中、アデリアはサツマイモに魔力を注ぐことに集中していた。


(うーん、集中しすぎかな? また肩に力が入り過ぎている気がする)


 アデリアは肩を上げたり下げたりしてほぐしながら、ハーランド公爵の姿を思い浮かべた。


(ゆっくり、ゆっくり、ハーランド公爵さまを思い浮かべながらゆっくりと注いで……あ、このくらいでよさそう)


 アデリアは止め時を感じて魔力を注ぐのをやめた。

 そして、魔力を使った区画のサツマイモをチェックしてみた。


「うーん、ツルは茂り過ぎてもいなくて丁度よさそう。だけど実はどうだ?」


 前ほどは茂っていないツルの先を確認するために、ズルッと引っ張ってみると。

 そこには見事なサツマイモが実っていた。


「あー、コレ! コレなら大丈夫でしょっ、お父さまっ! お父さま!」


 アデリアは大喜びでピョンピョン跳ねながら父を呼んだ。

 サミルは娘の手元を見て驚き、大声で褒めた。


「どうしたアデリア……おお、凄いじゃないか!」

「ん、どうした……おお、凄い。ちゃんとサツマイモだ!」


 アデリアの後ろから覗き込んだライアンも、驚きの声を上げた。


「あら、アデリア。凄いじゃない」


 イルダも寄ってきて、誇らしげに娘を褒めた。

 ソフィアに至っては、大きなサツマイモを頭上に掲げ、喜びの舞を舞っている。

 足元ではピッドが、ソフィアに踏まれないようピョコピョコと器用に飛び回っていた。


「ふふふ。ありがとう、みんな」


 アデリアはホクホクした笑顔で家族にお礼を言った。

 サミルはニヤニヤ笑いながら言う。


「今夜は本当にサツマイモ尽くしの夕ご飯ができそうだな」

「そうね、あなた。でもそれなら、もうちょっと頑張って植えちゃいましょうよ」

「ああ、そうだな。沢山あれば出荷できるかもしれないし。この畑はそこそこの広さがあるから、気分が上がって体が動くうちに、一気にやっとくか」


 愛しい妻に促されて、サミルは上着の袖をまくった。


「ああ、それがいいよ。オレは明日にでもサンプルを持って、パイクさんトコに行ってみる」

「そうか、そうか。売れるといいな」


 ライアンが言えば、サミルは上機嫌で答える。


「うふふ。パイクさん、驚いちゃうかも」

「そうね、アデリア。驚きのあまり、高値を付けてくださるといいわね」

「うふふ。そうなるといいなぁ」


 イルダの言葉に、アデリアは更に表情を蕩けさせながらホクホクの笑顔を浮かべた。

 ソフィアとピッドは、理解しているかは分からないが大はしゃぎだ。

 とても幸せそうな家族の姿がそこにはあった。


「よかったですね、旦那さま。アデリアさまは魔法を使うコツを掴んだみたいです」

「ああ、そうだね」


 ニコニコして満足そうなアデリアを、少し離れた所からハーランド公爵はティンドルと共に楽しげに眺めていた。


 だが喜びに浸っている者たちは気付かなった。

 別の場所からも、身を隠しながら鋭い視線を向けている者がいたことに、気付いてはいなかったのである。

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