第三十七話 鍛錬の結果
(コツもつかめてきたし頑張らなきゃ)
楽しい夕食会の翌日、アデリアは気合を入れて種イモに立ち向かっていた。
視界の端にハーランド公爵の別荘をとらえながら、静かに目を閉じたアデリアは、手元の種イモに魔力を注ぐ。
(ゆっくり、ゆっくり。あぁ、ハーランド公爵さまの別荘があるせいで、いい感じに気が逸れて魔力が細く少なくなっていくのが分かるわ。気が散るのって良くないイメージがあるけど、役に立つときもあるのね)
アデリアは、なんとなくくすぐったい思いでハーランド公爵の気配を感じながら鍛錬を続けた。
(ふふふ。観賞用の素敵な公爵さまだからか。すぐそこにいる、って思うだけでもワクワクしちゃって集中できない~。でも魔力の注ぎすぎはいけないわけだから、慌てる必要はないし。ゆっくり、ゆっくり、と……)
魔力を注いでいる種イモから、なんとなくタンッという感触が伝わってくる。
(ん、コレが終了の合図、かな?)
アデリアは、そっと目を開けて確認する。
するとそこには、昨日よりも数は少ないが、少しだけ大き目のサツマイモが実っていた。
「やったぁー」
アデリアは両腕を上げ、両手を広げて喜んだ。
「おー、サツマイモがなってるー」
「凄いな、アデリア」
ニヤニヤしながらサミルとライアンがやってきて、まじまじとツルの下に実っている芋を見た。
「ふふふ。大豊作」
アデリアはご機嫌だ。
「まぁ、このくらいだと売り物にはならないが……」
「おいも―さつまいもーたべたーい」
実を1つ持ちながらサミルが言う横で、ソフィアがポンポン跳ねながらねだる。
ソフィアの横では、ピッドがピョンピョン跳ねている。
「まぁ、ソフィアとピッドのおやつくらいにはなるか」
サミルが幾つか芋をもいでソフィアに渡すと、幼女と子犬みたいな魔獣は大喜びで家の中へと駆けこんでいった。
「地上だとこんなもんでしょ。そろそろ地植えしてみたら?」
ライアンの提案に従って、アデリアは種イモを土の中に植えた。
そして魔力を注ぐ。
(ゆっくり、ゆっくり~。魔力量が増えそうになったら、ハーランド公爵さまの姿を思い出して~魔力絞って~……)
アデリアは、魔力を注いでいる間にも以前とは明らかに違う手応えを感じていた。
(最後のほうのトンッていう、魔力満タンですって感じが分かってきたから……こう、途中経過でもやりすぎると分かるというか。感覚がつかめてきた感じする)
トンッという反応を感じて、アデリアは魔力を注ぐのをやめた。
「おお! 凄いぞ、アデリア。やったじゃないか!」
ライアンが地面からズルッと引き抜いたツルの端を、感嘆の声を上げながら揺らして見せた。
「これなら売り物になりそうだな」
サミルもニコニコしながらライアンの手元を覗き込んでいる。
「……やったぁ!」
アデリアは紫芋のサツマイモを見ながら、自分のなかに徐々に広がってくる悦びを噛み締めていた。