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第十六話 でもやっぱり諦めきれない芋魔法

 現金が手に入ったことで、ニッケル男爵家の屋敷は大規模な工事が入ることになった。


「屋根はもちろん、窓や壁も直してもらうけど。まずは増築部分を決めないといけないわね」

「ん、そうだな」


 アデリアの隣で図面を見ながらサミルがウーンと唸る。

 後ろから、ライアンが覗きこんで言う。


「修理や増築もいいけど、立て直すのもいいよね」

「ライアン、随分と大胆な提案だな?」


 サミルが突っ込むとライアンは笑った。


「ははっ。魔獣狩りの収入が、思ってたよりよくて……」


 調子のよいライアンを、アデリアが横目で睨んだ。

 どのみちニッケル男爵家の跡継ぎはライアンなのだ。

 本人が建て替えると宣言しているのだから、やってもらえばいいか、とアデリアは思った。

 

(建て替えるなら、最低限でいいか……ん~、でも、増築部分は欲しいし。でも壊すのは勿体ないわね)


 図面を見てアデリアが悩んでいると、ライアンが提案をした。


「とりあえず、傷んでいる屋根や壁を直して。増築部分は……別棟を繋げる感じでどう?」

「ん、それならそれでもいいか。アデリアはどう思う?」

「お父さまがよいならそれでいいわ。お兄さまが屋敷を建て直してくれるそうだから」

「はははっ。期待されちゃった」


 ライアンはヘラヘラと笑っているが、魔獣狩りで稼げることに気付いてから自信がついたせいか、頼もしさが増した。


(お兄さまが眩しい……)


 アデリアは、キチンとお金になる技術を持つ兄が羨ましかった。


(わたしには、何もない。ハーランド公爵さまと婚約はしたけれど、形だけだし。形だけといっても、婚約は嬉しいわよ? 援助を受けられるから当面のお金は心配しなくてよいし、領地の改革にも協力してもらえそうだし。でも……わたしは将来、どうしたいのかしら?)


 ハーランド公爵との婚約は形だけのものだ。

 ということは、いずれ解消される。

 だからアデリアが、将来の目標を結婚にするのは話が違うのだ。

 

(結婚なら永久就職みたいなものだから、安心していられるけれど。いずれ解消される婚約に頼っても仕方ないわ)


 とはいえ、アデリアにできることは限られる。

 商売向きでもないし、事務処理も苦手だ。

 そもそも何かできるようなことがあれば、王都で職に就いただろう。


(やっぱり私に残っているのは魔法!)


 魔力譲渡も、いざとなればお金になる。

 だが、それだけではたいした収入にはならない。

 それに、貴族令嬢向きの仕事でもない。

 もっとも芋魔法も貴族令嬢向きの魔法とは言い難い。

 でも農業系の魔法なら需要はあるし、品種改良まで出来るようになれば研究職として認められる。

 そこまでいければ、貴族令嬢の仕事としては上等の部類になるし、収入も期待できるのだ。


(学園では農業系魔法全般を習ったし。芋魔法を習得できれば、他もきっと上手くいくっ)


 アデリアは悩みつつも魔法の鍛錬に精を出した。

 しかし結果は、いつも通りだ。


(サツマイモ以外も試したほうがいいのかな?)


 アデリアは『つるぼけ』したサツマイモを眺めながら思った。

 とりあえず援助を受けられるのだから、飢饉に備えての芋魔法ばかりに力を注ぐ必要はなくなった。

 農業系の魔法は作物を直接育てるだけではないので、他の事も考えてみたほうがよいのかもしれない。


(農業を上手くいかせるには、他にもしなきゃいけないことは沢山あるわ。作物にしても、サツマイモにだけにこだわる必要はないけど……でもやっぱり、思ったような成果がだせないのは悔しいっ!)


 飢えないように完成を目指した芋魔法だったが、必要がなくなったといって投げだすのも嫌だ。


(わたしって、意外と負けず嫌いなのね)


 改めて自分の性格を自覚するアデリアであったが、その思いは屋敷の改修に取り掛かることで強くなる。


「今日はご苦労さま。お礼のほうは控えめな分、魔力はサービスするわね」

「いえいえ、気にしないでください、お嬢さま。領主さまのためですから頑張らせていただきます」


 今日から屋敷の改修が始まる。

 そのために、領民のなかで大工仕事の得意な者が、屋敷にやってきたのだ。

 材料となる木材などは、ハーランド公爵とパレット商会の協力により、簡単に安く手に入った。

 あとは作業をしてもらうだけだ。

 流石に一日で終わる作業量ではないが、魔力譲渡をすると作業効率は上がる。

 

(雨の時期が始まる前に、終わったらいいな)


 アデリアはそう思いながら、二十人ほど集まった領民たちに声をかけた。


「では、一列に並んで。順番に魔力譲渡しますから、手を出してください」

「「「はい」」」

 

 アデリアは、作業の前に領民たち、1人1人へ魔力の譲渡をした。

 領民が両掌を揃え、上に向けたところへ、アデリアが手をかざして魔力を渡していく。


「流石はお嬢さま。凄い魔力量ですね」

「しかもこの魔力は質がよい」

「うわぁ、いくらでも頑張れそう」

「ホントだ。腰痛も気にならない」

「バリバリ動けそうです」


 領民たちは口々にアデリアを褒め称えて、作業に取り掛かっていく。

 魔法と組み合わせて行われる作業によって、屋根や壁はあっという間に直っていった。

 書斎のための増築部分も、皆が力を合わせて作り上げていくおかげで、みるみるうちに出来上がっていった。


(羨ましい。わたしも、あんなにサクサク魔法を使えたら気持ちいいだろうなぁ~)


 だが羨ましがっていても、魔法は上手にならない。


「お嬢さまの魔力は、やっぱ凄いです」

「普段と全然、疲れかたが違うんですよ。ありがとうございます」

「もう日暮れだというのに、まだまだやれそうな気がしますよ。また明日もお願いします」


 領民たちは口々にアデリアへお礼を言ったり、褒めたりして帰っていく。

 領民に褒められたアデリアは、なんとなーく自信をつけていった。


(わたしの魔力って、自分で思っていたよりも凄いのかも?)


 屋敷が綺麗になっていくにつれて、アデリアの自己肯定感も、やる気もアップしていった。


(やっぱりわたし、芋魔法頑張るっ!)


 増築部分も完成して全ての工事が終わった頃には、アデリアは完全にやる気を取り戻し、芋魔法の鍛錬に励む日々へと戻っていた。


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