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第十一話 美しき公爵

 窓から差し込む光に、ハニーブロンドの長い髪が輝く。

 日頃の手入れが行き届いているせいか、血に汚れて乱れてはいるが、一般人とは異なる輝きは隠せない。


(これが高貴な生まれの者が持つという輝きかしら?)


 目を閉じていても分かる、他人より勝る整った顔立ち。

 体付きは細身だが貧弱というわけでもない。

 引き締まった良い体をしている。

 体格にも恵まれていて意外にも鍛えた体付きをしているから、相手が魔獣ではなく人間であれば、無様な姿をさらしてライアンに助けられることもなかっただろう。


(それにしても、綺麗な顔に傷がつかなくてよかった)


 貴族は、男性であっても美しさが求められる。

 顔に傷でも付いたりすれば、王弟であり公爵でもあるキリルであっても、悪評は避けられなかったことだろう。

 アデリアは、そんなことを思いながらハーランド公爵を眺めていた。

 キリル・ハーランド公爵がプレイボーイとして有名であることは、アデリアも知っている。

 婚約しては解消を繰り返している浮気な公爵。

 現国王の弟であり、公爵という身分を持ち、潤沢な資金と美貌にも恵まれているのだ。

 令嬢たちが放っておくわけがない。


(だからって、浮気者はダメだわー。ないわー)


 婚約相手や結婚相手としてはダメであるが、アデリアにとってキリル・ハーランド公爵は、観賞用の貴族男性にすぎない。


(見るだけならタダ! ラッキー)


 二度と見ることはないであろう無防備な美貌の公爵さまを、心密かに堪能するアデリアであった。

 イルダがハーランド公爵の顔についた血を拭っていると、ウゥーンという小さなうなりと共に、綺麗な顔が動いた。


「あ、気付かれましたか。ご気分は、いかがですか? 痛いところはありませんか?」


 イルダが聞くと、公爵はソファに寝そべったまま顔を横に振った。

 ゆっくりと目が開く。

 長いまつ毛に囲まれた大きな目には、美しい緑の瞳が収まっている。


(綺麗)


 アデリアの胸はドキリと高鳴った。


(あぁぁぁぁぁぁ、観賞用、観賞用……)


 呪文のように唱えて平常心を取り戻そうとするアデリアの前で、人形のように美しい男性が寝そべったまま、ふんわりとした曖昧な笑顔を浮かべて首を左右に傾げている。


「気分は……どうだろう? なんだかぼんやりしているけれど、痛いところは別にない、かな?」

「旦那さまぁ~、よかったぁ~」


 ティンドルが涙を流しながら、ハーランド公爵の足元に跪いて彼の手を握った。

 状況が分かっていない当の公爵は、視線だけを動かして、不思議そうに辺りを見回している。


「あの……ここは?」


(あぁぁぁぁぁぁ! 質素な我が家をチェックされてしまったぁぁぁぁぁぁ!)


 アデリアは、ようやくここに至って、深刻な事実に気付いた。


(眺めているだけなら、貧乏男爵家の実情なんて知られなくて済んだのにぃぃぃぃぃ。メッチャ恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃ)


 王宮に住んで育ち、今現在もバリッバリのお金持ちであるハーランド公爵にとって、我が家の質素ぶりは貴族になど見えないだろう。


 台所と食堂の間に仕切りもなく、食堂は客間も兼ねている。

 木の板で作った間仕切りの用意もあるのだが、使われることはまずない。

 家族はもちろん、客も食堂に通され、台所でもてなしの準備をしながら会話もできるという居酒屋風の部屋となっている。

 とはいえ、自宅なので居酒屋ほど華はない。

 質素な室内には飾り物もろくになく、手作り感溢れる長テーブルの両脇に、これまた手作り感溢れる椅子が並んでいるのだ。

 いまハーランド公爵の寝そべっているソファは、パレット商会会長であるパイクからの贈り物である。

 セットでテーブルも付けてくれたので、そこだけ異様に貴族っぽくて浮いて見えた。

 壁には、作り付けの棚があり、そこに食器が入っている。

 食器以外にも、家族の思い出の品や、家族の作った意味がわからないものなども並んでいた。


(平民の家と変わりない、というか、我が家よりもマシな平民の家なんて沢山あるから……気まずいっ!)


「旦那さまは、魔獣に襲われて気を失っていたのです」

「そうなのか、ティンドル。他の者はどうなった?」

「分かりません」


 主に問われてティンドルはシュンとなった。

 そこにライアンが助け舟を出す。

 ライアンは右膝をついてハーランド公爵の前に跪き、頭を下げてから説明を始めた。


「オレはライアン・ニッケルといいます。ここはニッケル男爵家の居間です。貴方たちを襲った肉食系の魔獣は、オレが処分しました。馬車を持っていったのは草食系の魔獣なので、お仲間は無事だと思います」


(ここって、我が家の居間だったんだ……)


 アデリアが初めて知った事実を噛みしめていると、後ろから聞きなれた声が響いた。


「おや、賑やかだね。お客さまかい?」


 出かけていた父サミルは、ハーランド公爵とその従者の姿を見て、目をぱちくりとさせた。

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