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恋でいいのか

 僕は可能な限り急いで駅に向かって走っていた。

 今住んでいる最寄りの駅からは電車で20分ほどで着く。

 息を切らしながらも、何度か萌ちゃんに電話を掛けてはみるが、やはり、つながることはなかった。

 おそらく充電切れだろう。

 何もないことを願いつつ、とにかく僕は急いだ。

 まだ3月で、外はさほど暑くないというのに、額から汗が滲んでくる。

 切符を買って、改札を抜けて電車が来るのを待っているときに、僕は今さら思い出した。


 あれ? 伊藤くんから電話だ。なんだろうね。ま、いっか。


 そう。無視したのだ。

 念のため断っておくが、無視したのは、2度目の着信だ。1度目は急いで玄関を飛び出すところだったし。


 どうせ、大した用事じゃないだろう。暇なら遊ぼう、とか言うに違いない。

 そう、たかをくくっていた。


 この時、僕はまだ何も知らなかった。知っていたら電話に出ていたし、ああいった話の流れにはならなかったのに。

 

 何も知らない僕は、電車に乗っている間は、萌ちゃんではなく別の人のことを考えていた。

 不思議と思い出される、千紗ちゃんと呼ばれたら女の子。とんでもないことを言った、女の子。その人が、どうしてだが頭に浮かんでいた。



 「俺、伊藤っていいます」

 仙台駅で見知らぬ男に話しかけられる女4人衆。

 その目が物語っている。


 (なんだ、こいつ)

 (相手するの面倒くさい)

 (地味な人)


 やってることはナンパなのだろうが、一対四では分が悪い。

 その上、この伊藤という男はさほど格好良い容姿をしているわけではなく、いたって普通の平凡で真面目そうな大学生といった感じでこれといって特徴がない。

 女性側からは、怪訝な表情を向けられ傍から見るに絶えない光景。

 同じ男ならば、その場にいるのは堪え忍びない。哀れ、としか思えない。

 そんな伊藤は蛇に睨まれた蛙の如き姿に見えた。

 通行人の一部が目に止めるも、興味ないあるいは無謀さに呆れて視線を反らしている。

 つまり、完全に周りから浮いていた。

 だから、ちょっとだけ異様な空気感だった。

 人が行き交い、雑然たる喧騒の中で男1女4の計5人が対峙している。

 ぱっと見、何も事情を知らなければハーレムで羨ましく思う男もいるだろう。

 

 「あの、興味ないですよね、俺になんて」


 伊藤の心は早々に折れかかっていた。

 しかし、その時、光が差した。それは、まるで天使のような声だった。

 天使と言っても澄んだ声ではなくて、鼻にかかる女性の声なのだが。


 「アタシで良ければ、いいよ」


 その言わんとする処に、伊藤は天使の声を感じたのだろう。

 その声は、目の前の女の子の1人から発せられていた。

 一瞬、耳を疑った。


 「え? い、いいの? 俺なんかで」

 「今、人を待ってるから。その人が来るまでだったら、いいよ」


 途端に、他の女性たちの態度が変わる。


 「ちょっと、萌! いいの?」

 「別にいいじゃない。アタシは、男の人なんて好きにならないし」


 「そ、そうかもしれないけど‥‥‥」

 「ほら、そんな顔しないで。伊藤さんに失礼よ。きちんと名乗ったんだから」


 白石萌の発言があって、とりあえず女性側からも自己紹介することとなった。


 「アタシは白石萌。横浜の音大生。今日は、春休み期間を利用して仙台にいるいとこに会いに来たの。今はいとこが来るのを待ってるところ」

 

 このグループのリーダーらしく、ハキハキと喋っていて堂々たる態度だった。


 「で、この子たちはアタシの友達」

 そう言われて、それぞれが軽い自己紹介をした。


 「萌とは中学から仲がいい吉田です。今は社会人1年目」

 「わたしは萌さんと同じ音大生の斎藤です。高校からの友達です」

 「同じく音大生の華音です。萌さまとは知り合ってすぐ仲良くなりました」


 「改めて、伊藤です。短い時間になりそうだけど、お付き合いよろしくお願いします!」


 それぞれが自己紹介を済ませたところで、伊藤はある提案をしてきた。


 「それで、いきなりで申し訳ないのですが」

 「はい、なんでしょうか」


 「流石に、人数がね。男1人ってのはどうかと」


 そう言うなら最初から声かけるなよ、なんて思う。

 だけど、あえてそこは誰も突っ込まなかった。

 そんなの今更だ。

 

 「ちょっと心当たりがあるから、1人。呼んでもいいですか?」

 「どうぞ」✕4


 そして、伊藤は友達に電話をかけた。しかし、出なかった。

 あれ? 今日は暇だったはずだ。時間的にも寝てるってことはない。

 これはあれか。面倒くさいからって無視された?

 念のため、もう一度かける。やっぱり繋がらない。

 うわー無視だ。ありえな。

 もう、俺、お前の友達やめようかな。


 「お友達は、来そうですか?」

 「う~ん、いつもはすぐなんだけど。もう少ししたらまた電話してみますね」


 そんなやり取りを白石萌と伊藤がしている最中、他の3人はこれから来るだろういとこのことが気になってるいるようだ。


 「あの萌がねぇ」

 「あれは過去に何かあったやつではないでしょうか」

 「それって、つまり、やっぱり? あれか」


 恋バナする女子ってなんでキラキラした目をしてるんだろうね。


 「ちょっと、あなたたち! アタシの話で盛り上がらないで」


 「えぇ~、たまにはいいじゃない」

 「そうそう。恋に焦がれる萌さまも素敵」

 「萌さんにも恋する乙女の部分があったなんて、わたし知らなかったよ」


 「だから、やめなさいと言ってるのに」


 怪訝そうに伊藤は様子を伺っていた。けして、入り込めない女子会の雰囲気が流れていた。


 「ごめんなさい。アタシの話ばかりして。つまらなかったよね」

 「いや、そんなことは」


 「そう? でも、アタシは自分のことよりあなたのことが知りたい、かな」


 そんなふうに言われて、伊藤は少しドキッとした。

 あれ、女子と話すって、こんなだったっけ。そもそも、最後に話したのいつだっけか。

 あ! 俺、男子校だったわ。そもそも、ほとんど女子と接点ない。

 なるほど。恋に飢えてたのか、俺は。

 だからだな。あいつに恋しろよ、なんて言ったのは。

 本当に恋したいのは、自分自身だったのかもしれない。

 よし、もう一度。もう一回だけ電話してみようかな。これが最後だ。

 3度目のコールを鳴らす。

 よく、3度目の正直なんて言うけどさ。あれって、本当はまぐれだよね。

 だってさ、今だって、そう。


 二度あることは三度ある。

 2回かけて電話に出ないやつは、3回目にかけても出なかった。


 「来ないなら、それはそれで構いませんよ」


 そんな対応をされてしまう。これ以上、待たせても仕方ない。

 

 「そうですね。えっと、俺のことが知りたい、でしたっけ?」


 「そうですね。アタシたちのことばかり話すのもなんですし」

 

 「俺、実は、男子校出身で今まであんまり女性と接点なかったんです。だから、うまく話せないかもしれないんですが、その時はすみません」


 「は? それで、あたしらに話しかけてきたの? そんなことってある?」


 「まぁ、まぁ、まぁ。いいじゃない。細かいことは気にしなくても」

 「そこまでして、ナンパってするものなのね」


 「あ、いや、これには事情があって」


 なんで、俺がナンパまがいをしたかといえば、前日の、淳への恋をしろ発言が影響してることは間違いない。

 人に言っといて、自分はできないなんて、カッコ悪いだろ。

 とりあえず、あてはないけど人の多そうなところで声をかけて、淳を誘って遊ぼうかと思ってた。

 そしたら、淳はなぜか電話に出ないときたもんだからなあ。

 どうしようか。


 「お兄さんの呼ぼうとしていた友達って、どんな人ですか?」


 華音から訊ねられた。


 「そんなに長い付き合いじゃなくて、高校を卒業してからだから詳しいことは知らないけど」

 

 「え? それで呼ぼうとしていたの? よく知らない友達を?」


 「いや、たしかにそうなんだけど。こういうのって付き合いの長さじゃないと思うんだ。たしかに詳しくはお互い知ってないけど。とにかく、いい奴なんだよ」


 そう語る伊藤の表情に迷いはなかった。


 「あいつは人にやさしくて、自分のことはどうでもいいって思ってる。そんなやつ、ほっとけない」


 「お兄さん、意外と真面目なんだね。しかも友達思い」


 言われて、伊藤は考えた。

 俺ってお節介なことしてるよな。

 もしかして、淳から嫌われてるのではないだろうか。

 だから、電話に出なかったのではないだろうか。


 そんなことを考えていると、白石萌が話しだした。


 「アタシも、似たような人を知ってる。その人は、今から会う予定なんだけど」

 

 人に優しいけど、本音をいつも隠してて、気の許した相手にしか見せないようにしている。

 目立たず、ひっそりとしてるけど、アタシは知っている。

 淳くんの良いところ。人にはなかなか理解されないけど、アタシにはわかる。

 だから、放っておけない。


 恋い焦がれる少女に戻ったように、萌の思考はいつものような冷静さを欠いていた。

 だからこそなのかもしれない。

 普段はしないであろう思い出話を知らず知らずのうちに、していた。自分でも気が付かないうちに。



 アタシはいとこに裸を覗かれたこともあるし、キスもしちゃってる。

 もちろん、こんな話をするのは恥ずかしい。でも、嫌ではなかった。

 裸を覗かれる前に、アタシは既にいとこを好きになっていて、というか、好きになった日の夕方にお風呂場で見られてるんだけど。

 親から言われて、先にお風呂に入ろうと脱衣場に居た。服を脱ぐところで扉が開いて、出てきたのは淳くんだった。

 アタシの弟や妹と走り回って遊んでいて、どうやらかくれんぼみたいなことをしていたらしい。

 まだ誰もいないだろうと思ってた淳くんは、脱衣場に逃げ込もうと一人でやってきた。

 そして、何も知らずに扉を開けた。

 アタシはこの時、小学生にしては発育がよくて、一応ブラをしていた。かわいいやつじゃなかったけど。

 突然、淳くんが入ってきた時、上はブラだけで、それも手をかけてて半分脱いでいた。

 さらには、下は、何も履いてなかった。隠してもいない。

 一瞬で顔が真っ赤になったのを覚えている。そして、アタシは固まってしまった。

 あの時はどうしていいか、わからなくなった。

 普通なら、ビンタして追い出したりするものかもしれない。

 でも、できなかった。あわてて隠すくらいで、追い出そうとは思わなかった。

 3秒ほど無言で見合わせていら、淳くんも顔を真っ赤にしてアタシの体から目をそらした。

 あろうことかおかしなことを叫んで淳くんは脱衣場から飛び出していった。

 あの時、見てないからって叫んでたけど、確実に見てるよね、あの反応は。

 その後、妹が言ってることが衝撃だったことも覚えている。


 「いとこのお兄ちゃん、萌ねぇちゃん覗いたの? 別に怒られないよ」

 「な、なんてこと言うのよ! ちょっと、風花」


 「だってさ、お姉ちゃんのこと変態さんだって知ってるよ。むっつりの方の。だから、大好きな淳兄ちゃんから覗かれても、嫌いになんてならない」

 

 アタシは何も言い返せなかった。

 というか、我が妹を恐ろしく思った。

 なんで、アタシが淳くんを好きだってわかるの? そんなにわかりやすいかな、アタシ。


 脱衣場覗かれ事件のあとは流石にちょっと、アタシは淳くんと一瞬、ギクシャクした。けど、それも長くは続かなかった。

 わりとすぐ、また仲良くなった。


 そして、その日の夜。

 つまり、裸を見られた日のこと。

 なぜだか知らないけど、アタシは淳くんから、好きな人の話をされた。

 同級生の女の子で、知的で透明感のある気品と優しさが漂うお嬢様なんだとか。

 それを聞いても、アタシは淳くんを好きでいた。

 なぜなら、淳くんから言われたから。その人のことは、一方的に好きなだけで付き合ってないし相手されてない、と。

 高嶺の花に憧れてるだけ。遠くから眺めていられるなら、それでもいい。でも、できたら仲良くしたい。

 そんなことを言われたから、アタシは言ってやった。

 

 「その子と、キス、したい?」


 なんてこと言っちゃったんだろう。でも、なんだか言わずには居られなかった。

 

 「そ、そりゃ、できるならな。お、オレだって男だから」

 

 めちゃくちゃ照れながら言ってきたから、かわいいって思った。

 

 「じゃあ、してみる?」

 「え?」


 なに言ってるのって顔で淳くんはキョトン、としてた。


 「してみる? って、な‥‥‥‥」


 淳くんが言い終わる前に、アタシは唇を奪った。間違いなく、アタシたち2人ともファーストキスだった。


 一瞬だったはずなのに、顔を近づけて、重なって、ほんの僅か触れていただけ。

 それなのに。

 

 ものすごく、長い時間に感じた。

 

 唇が離れても、まだその余韻がある。触れてたところが、なんというか、ほわほわしてる感じ。


 「キスの練習だよ」

 「いや、これ、キスしちゃってる」


 「そうともいう。淳くんの好きな人だと思って、練習していいよ」


 少し間があって、今度は淳くんからキスされた。お返しされた。


 あの頃は、子どもだったからこそ、深く考えずにできたのかもしれない。

 今じゃ、無理。

 というか、あの時、キスできたことが不思議。

 

 あれから、お互い意識するようになった気がする。というか、変に意識してるんだろうな。そうしてしまっている。

 アタシは、何があっても好きだから意識こそすれど、避けたりはしなかった。

 でも、嫌いじゃないはずなのに、淳くんはアタシを避けることがある。

 意識してるんだろうな。そんなのは見ててわかる。でも、どっか線を引いてるのだろう。

 キスしちゃったけど、これ以上は、この先は取り返しつかない、みたいな。


 そんな昔話を思い出していた。

 


 「あぁ、悪い。電車に乗ってた」

 「ほんとか? 無視してたんじゃないだろうな」


 「本当だよ。最初のは急いでて気づかなかったけど」

 「嘘つけ。最初から無視してただろう」


 僕は伊藤くんへ電話をかけた。

 本当は電話するつもりはなかったけど、電車で向かってる途中にメッセージが届いたから。

 

 『今、仙台駅で女子大生(内1人は社会人)たち4人といる。お前も早く来い!!』


 は? なんだってー!


 仙台駅、女子大生、嫌な予感がする。

 

 この時、既に遅かった。もっと早く電話に出ておけばよかった。

 そしたら、裸覗きだのキスだのといった話題が出ることはなかっただろう。


 僕は、駅の改札を駆け抜けて、伊藤くんたちの元へ向かった。


 「おお、ようやく来たか」


 姿を見せた僕に、唖然としていた1名がいる。もちろん、白石萌だった。


 「え? 友達って、淳くんだったの?」

 「ん? なんだ、どういうことだ?」


 「だから、その、さっきまでの話で。アタシのいとこが淳くん」


 なんとなく状況がつかめた。

 

 「伊藤くん、僕のいとこをナンパしてたね」


 伊藤は悪びれることなく、むしろ余裕の表情だ。


 「なんとでも言うがいい。覗き魔でキス魔のお前になんと言われようと構わん」


 面食らった。

 萌ちゃんは、なんて話をしてくれたんだ。

 恥ずかしいことこの上なかった。


 「恋をしろって言った時、お前は微妙な反応だった。しかし、どういうことだ? こんなに可愛い子がいるというのに」


 「いや、あの、いとこだよ」


 「そんなの、関係ないだろ。お前は難しく考えすぎなんだよ」

 

 「そんな簡単なことじゃないだろ」


 「とにかく、飛び込め。」


 そんなやり取りをしていると、白石萌の友達が言ってくる。


 「今まで、萌は好きな人がいないんだと思ってた」

 「本当に恋愛に興味ないんだと思ってた」

 「クールで塩対応で、照れるとこなんて見たことありませんでした」


 なんだろうね。この子たち。あ、電話越しに聞こえてた声って、この子たちだったのか。

 僕は今さらながらに気づいた。

 そして、僕が来るまでに、とんでもないことを萌ちゃんが言ったことも、なんとなくわかった。

 

 「萌さまの恋心は燃えるような熱さ」

 「涼しい顔して、実は一途な恋を隠してたのね」

 「もう、言っちゃいなよ、ほら、そこにいるよ」


 なんか、これはダメな気がした。

 本人が言うならまだしも、こうも周りからとやかく言われて、萌ちゃんの気持ちはどうだろうか。

 本当に、こういうので良いのだろうか。

 二人で会いたかった、と確かに言った。

 ならば、この状況は臨んでなったものではない。


 「あの、淳くん、その、ごめんなさい」

 「いや、これ以上はいいよ」


 また、場を改めて話したほうがいいだろう。


 「でも、あ、アタシは、淳くんのことが」

 「ストップ! その先は、今は言っちゃダメだよ! 今度、しっかり聞くから」


 周りのざわめき、しかし、僕の制止によって、空気は変わった。

 極上の恋バナを繰り広げた、夢見る乙女たちのさえずりは止んだ。


 「おい、本当にいいのか。しっかり受け止めてやれよ」

 「いくら恋とはいえ、いとこはノーカンだろ」


 萌ちゃんを見ると、涙を浮かべていた。

 自分が対象外。そんな事言われて傷つかないはずはない。

 僕は胸が苦しくなるけど、いずれ、こうなるとわかっていたから一線を超えないようにしていたのではないか。

 だったら、しっかり伝えるべきことがある。


 「あのね、淳くん。いとことは結婚しても大丈夫だよ。問題ないんだよ」


 たしかにそうなんだけど。

 って、萌ちゃん? なにいってんだい? 

 結婚、って。


 子どもの頃は知らなかった。知らないで、好きになった。

 でも、今は、違う。

 良い、悪いじゃない。

 どう思うか、だ。

 少なくとも、今はそこまで考えることはできない。


 「ごめん、萌ちゃん。僕は、用事を思い出した」


 すると萌は呆然としていたが、引き留めようとはしなかった。

 

 「そう‥‥、また、会える、よね」


 「萌ちゃんが望むなら、都合をつけるよ」


 その答えに、どこか納得したのかそれ以上、何も言ってこなかった。



 僕は考えていた。電車の中でも、ずっとだ。

 なぜだか、会いに行くいとことは違う女の子が無性に気になってる仕方なかった。


 あの時、あの子はなんて言った?

 そして、なんで、そんなとんでもないことを僕に言ったんだろうか。

 僕なんかにする話じゃないのに。

 疑問だった。考えれば考えるほど、わからなくなった。


 僕は恋なんかでごまかせない、何か、もっと大切なものがある気がした。

 

 とにかく会って確かめるんだ。

 僕に何ができるかわからない。でも、話くらいは聞けるから。

 何を考えてるのか、何に苦しんでるのかなんてわからない。

 だけど、精一杯、生きてる人がうらやましくてたまらない。

 それを失くしたくない。

 なんだか分からないけど、そういうふうに思わざるを得ない。


 案外、気弱で怖くて、落ち込んでるのかもしれない。そう思うと、居ても立っても居られなくなった。


 だから、僕は再び走って移動した。

 後ろは振り向かずに。


 今度は、市立病院に向かって。

 駅前に広がるバスプールの、5番乗り場へと続く階段を駆け抜けた。

 

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