13.入学式(その2)
「長崎先生、いかがでしたか?」
とにかく、本番まで数日しかないから技術的なことはどうしようもない。言葉に気を付けながら話をしよう。
「ありがとう。みんなの熱意は感じたよ。でも新入生に印象づけるにはもうちょっとインパクトが欲しいかな。でもあと数日しかないから、今の演奏をベースにちょっと頑張ってみよう。次は私が指揮してみるね」
そういうと部長が本来の自分のパートに戻る。昨日ちょっと聞いただけでも彼女のトランペットは中々のものだったから、彼女が戻るだけで随分違うに違いない。
私は指揮台に昇った。指揮棒は持たない。指揮するのは久しぶりなのでこんなちょっとしたことでも感覚が合わない。不安だが指揮は自信ありげに振らないと演奏者が戸惑う。
「この曲は低音パートの小さな音から始まるけど、入学式のざわめく体育館の中では響かないと思った方がいいわね。だから最初から思い切って大きく音を奏でてみよう。じゃあ行くよ」
私は元々左利きだったのを右利きに矯正した。だからどちらの手でもだいたい同じことができるけど、部員たちを混乱させないように、右手でリズムを刻んだ方がわかりやすいだろう。
よし、いくぞ。
低音パートに向かって力強く両手を振る。そう、音を大きく、もっと大きく。よしよし、ここでクラリネットとサックスが同時に入るよ。低音はパートはしっかり全体を支えてね。そこで盛り上がってきたところに、トランペットが入る。やっぱり部長が戻ったからか、みんな自信を持って吹けている。よしよし、だったらここでいったん音量を落としてみよう。クライマックスの前にタメに入るんだ。本当はテンポも少し落としたいけど、混乱させちゃいそうだから無し。
はい十分タメたね。じゃあそれを開放するよ、タイミングを合わせるよ、ほらどーん。新1年生にかっこいいと思ってもらうんだよ。もっともっと強く強く。あっ音割れたな。でも気にしない。強く。強く。そしてはい終わり。
部長がトランペットに戻ったせいか、最初は緊張してたからなのか、一回目よりは随分良く聞こえる。これで都のコンクールでいいところまでいくかというと絶対無理だけど、新入生にはいいアピールになるんじゃないかな?
もちろん音が飛んだり割れたりしているところは直さないといけないけれど。そこは練習あるのみだ。部員たちの様子を見ると息が荒い。2回連続で通したから結構疲れたかな?
「お疲れ様。えーっと10分程休憩入れたら、もう一回集まってね。パート練習はその後やろう。じゃあ楽にしてね」
生徒は休憩が必要。でも教師はその間も仕事をするのだ。私はこの後どうするかを考えた。結局休憩が終わった後、部員たちにはそのまま席に座らせた。
「うん。じゃあ私が弾いてみるからちょっと聞いてみてね」
ピアノで彼らが弾いた一回目の演奏を再現してみる。もちろん手は二本しかないからすべての音を再現することはできないけど、イメージでわかってもらえばいい。自信なさげな音、飛んだり、外れたりした音もできる限り再現する。
「今の私の演奏どうだった?」
弾き終えてから、私が質問するとみんな戸惑っている様子だ。意地悪だったかな? すると男子生徒の一人が答える。
「正直、動画で見たのと違って、先生、本当はピアノがあまり上手じゃないんだな、って思いました」
私の動画見たの? ていうか、そっちからか?
「そうだね。結構間違えちゃってたよね」
私はちょっと頭をかく。
「違うわよ。先生は、さっきの私たちの1回目の演奏を再現したのよ。私のミスもそのままコピーされてたもん」
録音したものを聞くのもいいが、こうやって演奏で返した方がより印象に残るんじゃないかと私は思う。
「そう。他にも気が付いた子がいるかな? 私にはみんなの最初の演奏はさっき弾いたように聞こえたよ。じゃぁ次は2回目じゃなくて、私がさっきの指揮で表現したかったものを弾くわね。これを漠然とでいいからイメージを掴んでから各パート練習に入って欲しいな」
私は少し丁寧に引き直した。先ほどの演奏を聞いた限りでは、今のこの子たちならこの程度なら入学式までになんとかできると思う。
「新入生が『この学校に入って良かった』と思う、きっかけの一つにみんなの演奏がなれればいいよね。あとの時間は個々のパート練習をするよ」
どんな風にパート練習をするのかを見るのも楽しみだ。私も久しぶりに管楽器触ってみるのもいいかな。




