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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

銀の獅子

作者: ほろ苦

よろしくお願いします。

血の匂い

鉄の匂い

汗の匂い

泥の匂い

そして、人間が焦げる匂い…


荒れに荒れた国同士の戦いがやっと終わった。

結果、我が国リロルド王国が勝利し、敵対国ザッシ国王の首が跳ねられた。

歓喜の雄叫びを上げて兵士たちはぼろぼろな姿で涙を流しお互いの無事と勝利をついた喜んでいる。


「ネル隊長……やりましたね」


身体についた、いくつもの傷から血を滲ませ泥と汗と返り血だらけの鎧姿の副隊長アリアドは瞳に涙を溜めて男泣きしている。

大柄でめちゃくちゃ戦闘力高いが根は虫も殺せないほど優しい。

そんな彼に何人いや何十人殺させてしまっただろう。


「終わった…もう戦いなんて御免だ」


私も涙を流し笑顔で返した。

リロルド国、第七騎士団隊長カミーラ・ネル

我が国唯一の女隊長をしている。

父が騎士だったこともあり、幼いころから武術を習い、幼なじみのアイツに負けたくない一心で強くなっていった結果が隊長になっていただけだ。

27歳で恋人いないし、もちろん結婚も出来てない。

戦いに明け暮れた毎日だった。

でも、これで戦わなくて済む。

本気で婚カツ出来る…かも!

明日からの過ごし方に夢を膨らませていると、別部隊が捕虜を連れて戻ってきた。

敵国の兵士10名が縄で縛られ、暴行を受けたようでボロボロな姿で足元もフラフラしている。

命のやり取り、戦争においてこういう一面もある。


「殺せ!!」

「始末しろ!」


所々から聞こえる野次に私は不愉快と目を細めた。

捕虜は軍を率いていた第一王子エクセルの前に膝間付かされた。


「これは、銀の獅子ではないか」


銀の獅子…噂では隣国で一番腕のたつ将軍だとか。

私も実人物を見たことがなかったので少し近付いて興味本意で顔を確認した。


!?


この顔…は…

間違いない。

子供のころ共に武術を学んだ幼なじみでライバルのアイツ…


「名は?」

「…ジガルデ・エイド」


顔には複数の痣があり泥で汚れて、鎧の隙間から血が垂れている。

他の捕虜兵たちも似たような状態で虚ろな目をしているが、ジガルデだけは瞳の奥に強さが残っていた。

捕虜を連れてきた8番隊隊長リチャードが自分の功績を讃えてと言わんばかりに声を張って剣をエクセル王子に差し出す。


「戦いは我らの勝利だ!敵国の強さの象徴にどうぞ剣を!」


8番隊は前線には向かないからと、まるで逃げるように後方支援を申し出た部隊。

勝手に残党狩りをしていたのか…

私はぐっと唇をかんだ。


「勝利の証を!!」

「殺せ!!」


周りの兵達は高揚して声がうねりをあげる。

エクセル王子は表情ひとつ変えず剣を手で掴んだ。

私は静かに目を閉じて、一呼吸する。

このままだと…

そう思った瞬間、カラダが勝手に動いていた。


野次を飛ばす兵を押し退け、私はジガルデの前でエクセル王子に片膝をついて頭を下げた。


「!?ネル、邪魔だ!!」


リチャード隊長に怒鳴られるが私は無視をした。

野次を飛ばしていた兵は一気に静まりかえる。


「エクセル様、ご無礼をお許しください」

「…なんだ」


私は顔を上げて真っ直ぐにエクセル王子を見つめた。


「戦いは終わりました。お互い憎しみあい沢山の尊い命が犠牲になりました。でも、終わったのです!これ以上、命を失いたくありません!」

「なにを戯けた事を!」


リチャード隊長が鼻で笑って私を退かそうとするとエクセル王子はギロっとリチャード隊長を睨んだ。

若いのになんと貫禄がある。


「ネル殿、そなたの部隊はこの戦いにおいて一番の活躍をした部隊だ。褒美として、この捕虜をまかせる。後日報告に来い。」


エクセル王子はそう告げると剣を私の目の前で地面に突き刺した。


「は!」


私は頭を深く下げると、エクセル王子は自室に下がった。

周りの兵たちは納得していない者もいるようだったが私の7番隊の活躍を知る者は私の行動を称賛してくれた。

さて…捕虜を10人預かることになってしまったのだが。

副隊長は私の行動を責めはしなかったけど


「本当、ネル隊長は冷静さに欠けます」


と、小言を言われた。

私の7番隊は60人、この最後の戦いで重傷者2名、死亡は1名、軽傷者多数で皆疲れきっている。

その中で、捕虜10名の世話はかなりキツいだろう。


「皆、すまない。出来る限り私がしようと思う。協力してもらえるだろうか?」

「何言ってるんですか?隊長。あんた、観葉植物でさえ枯らしてしまうでしょう。俺らもちゃんと世話しますよ」


部隊の中でリーダー格、ジェイドの発言に部隊の皆は笑って承諾してくれた。


「しかし、銀の獅子はどうする?統率力がある人物は一緒にしない方がいい」

「あ、あの!彼だけは私が…その、色々聞きたいことがあって…」

「隊長?」

「え!あ!戦略とか、隣国の国状勢とか!じ、尋問を!」


副隊長は苦笑いを浮かべていた。

ジガルデだけ隊長室の側にある尋問室に預り、その他の兵は第七隊の牢で面倒を見ることになった。

副隊長はジガルデが暴れださないか警戒して尋問室の柵にジガルデをきつく縛り付けた。

そんなにしなくても…と心で思ったが口には出せなかった。


「…あーえっと」

「おほん。この方はリロルド国第七隊隊長ネル様だ。危害を加えるつもりはないが、反逆の疑いがあれば迷わず切る」


私がモゴモゴしていると副隊長アリアドが物凄い圧力をジガルデにかけていた。

ジガルデは視線を私に向けて何か考えて、アリアドを見た。


「発言の許可を頂きたい」


ジガルデの声は掠れていた。

何か飲み物を飲ませてあげないと…


「なんだ」

「この度我が兵の命を救って頂き心より感謝する。彼らの所業は全て私が責任を取る。どうか彼らには寛大な扱いを願いたい」

「…わかった」


つまり、自分は煮るなり焼くなり好きにしていいから、部下に手を出さないでってことね。

アリアドは目がウルッてなって、鼻をこするふりして涙を拭っている。


「ネル隊長」

「あ、…そうだ、アリアド飲み物と食べ物を大至急持ってきて。他の捕虜たちにも手配をお願い」

「しかし、ひとりでは」

「私がそんな軟弱な隊長に見える?」

「いえ、全く…どちらかというと鬼です」

「…おい」

「行ってきます!!」


慌てて逃げるようにアリアドは部屋を出て行った。

次の訓練でアリアドにいつもの倍稽古つけてやる。

私は一呼吸して壁に縛り付けたられているジガルデに視線を戻す。

逞しく鍛えている身体、泥で汚れているが所々キラキラ輝くシルバーの髪に真っ直ぐに見つめてくる紺色の瞳…


「久しぶりだな」

「ジガルデ…本当、10年ぐらいか…」

「いや15年だ。俺が国を渡って15年だから」


ジガルデは一緒に武術を習い12歳の時、親の都合で突然いなくなったのだ。


「こんな再会、皮肉なモノだな。」

「私、銀の獅子がジガルデだなんて知らなかった」

「俺は知ってた。ネルが隊長になったって」

「え…」

「当たり前だろ、敵国の隊長位調べる」

「確かに。でも、銀の獅子は隊長じゃないし謎が多い存在だったから」

「まあ、特別任務ばかりだからな。今回の戦いも負ける予定じゃなかった…何処かの誰かがこっちの裏をかいて奇襲して来なければ勝ってたはずだ」

「誰かしら?」

「奇襲して攻め押してくると思ったら、すぐ下がり反対が来るなんてうちの軍は翻弄されっぱなしだったよ。俺の任務は…成功したけどな」

「…姫ね」

「正解。姫を無事に逃がす。それだけだ。」

「囮になったのね」

「あそこに居られては困るからな」


あーあ、リチャード隊長が持ち場を離れた隙に王家の血筋を逃がしてしまった。

将来、戦争の火種に成りかねないのに…

今から捜索しても、まず見つからないだろう。

考え事をしている私をジガルデはジッと見つめていた。


「なに?」

「いや、いい女になったなって思って」


突然のいい女発言に私はボンっと顔を赤くした。


「な、なにを急に!」

「俺はどう?」


じっとりと見つめて来るジガルデの色気が増してくる。

私は苦し紛れに平静を装い身体を拭く用のタオルを準備した。


「まあまあ、ね」


ここで男性経験がすくないような態度をとったら恥ずかしいし、一応捕虜の大将にナメられたらいけないと思い虚勢を張ってみた。

とりあえず、濡らしたタオルでジガルデの汚れを拭いていると、ジガルデと視線が絡み合う。


「…ネル」

「…身体に刺し傷あるでしょ、そこも治療しないと」


私は何とか視線を反らした。

ジガルデは両手首を縛りつけられているので、とりあえず鎧は短剣で切り離し出血している部分を確認する。

服は血で所々と汚れているのでこれも短剣で裂いてカラダをタオルで拭いて傷口を消毒した。


「…っ…ぅ」


痛みが走るのか表情を歪めているが、頬は紅くなり、まるで上気しているような色気がジガルデから駄々漏れている。

私は平静を装って黙々とジガルデのカラダを拭いていたが、心臓はバクバク煩かった。

傷だらけだけど、逞しいカラダ。

子供の頃、追いかけていたライバルが自由を奪われ私の一存でどうともなる…そして、今は二人っきり…

私と再び視線が合うとまるでジガルデは私を誘っているような瞳で見つめて視線を反らさない。

そして、ジガルデは甘く囁く。


「…俺は…お前のモノだ」


その言葉に私は血が逆流するかと思うくらい顔が紅くなり、心臓が熱くなった。

やばい…やばい、やばい!!

え、やばいの?

いいじゃない。

私は隊長で王子にご褒美としてもらったのよ?

敵国の捕虜をしつけるなんてよくある話。

好きにしてもいいんじゃない。

誘惑と言う悪魔が私を突き動かす。

フラフラっとジガルデの首筋に私は顔を近づけ人差し指でそっと撫でるとジガルデは熱に抗うように頬を赤くしたまま耐えてる顔をした。

啄むように首に口付けを落とすと仄かに雄の香りが漂う。

ああ…やりたい…

女の私が発情するのはおかしいことだろうか?

好みの異性と強い子孫を残したいと思うのは本能ではないのか?

汚れた服を裂いてほぼ半裸のジガルデを私が襲っても…


「ネル様、飲み物と食べ物をお持ちしました」


扉が開く音と同時に私はジガルデから飛びはね離れた。

私はいま、なにを考えてたの?

心臓をバクバクさせながらジガルデを襲おうとしていた自分を責めた。

私に替わりアリアドがジガルデの世話を進めているので、私は頭を冷やすために他の9人の捕虜の様子を見に行くことにした。

手足を拘束されて牢屋に繋がれている彼らの瞳は私への疑いしかない。

そりゃそうだ、自分の大将だけ連れて行かれてナニをされているかわからないのだから。

私は騎士たちに決して手荒なことはしないこと。

まずは人間関係を少しずつ作ることを指示して、騎士隊長部屋の尋問部屋に戻った。

普通に部屋に入った私にアリアドは飛びはねて驚き、恐る恐る私をみる。

その手はジガルデの男性を象徴する部分を握っており、ジガルデは呼吸が荒く、上気した表情になっておりナニかタダならぬ状況だ。


「アリアド…なにをしている」

「も、も、申し訳ございません!!その、わたしは…えっと」


慌てて手を離して混乱している様子だ。

まるで、さっきの私のように…ん?

もしかして…

私はギロリとジガルデを睨むと、ジガルデは私と視線を合わせなかった。


「ジガルデ、これは薬か…いや、暗示の一種か」

「何が?」

「チャーム…誘惑…相手を発情させる術を持っているのだろう?」

「…」

「答えろ」


ジガルデは睨んでいる私にゆっくりと視線を戻した。


「特別な事ではないさ。対象の相手に気に入ってもらう。心を操る為の基本的な事だ。俺の望むよう事を運ぶための手段に過ぎない。」

「そんなものに惑わされるわけ…」

「欲しいんだろ?」

「!」

「…俺を抱けよ」

「っ…」


情熱的で熱を帯びた瞳から逃げられない。

これも一種の暗示なのだろう。

ジガルデを抱きたくてカラダがウズウズする。

でも、私は…


「私に抱いて欲しいのなら、私に認められる男になりなさい。ただの快楽だけなら、他で十分よ!」


他なんて、いるわけないけど…

私の言葉にジガルデは驚いた顔をして固まった。

なんて危険な男だ…銀の獅子

アリアドもジガルデの術中にはまるところだったと反省しているようだ。

まあ、アリアドに関しては、もうおさわりしていたからアウトだけど。

それからジガルデは私達に素直に従うようになり、他の捕虜にも私達に従うよう説得をしてくれた。

日数が経ってジガルデが信用に値すると判断されて拘束具も外され、協力的な仲間となりつつある。

武術も長けており、戦術もキレモノな上にあの色気である。

周りから好かれるのも無理はない。

ただ、ひとつを除いて優等生だ。

それは…


「ネル、俺を抱いてくれ」

「…いやです」


私の仕事を手伝ってくれるジガルデは襟元を緩めて私に迫ってきている。

あれから、ちょくちょくジガルデにアタックされている日々だ。


「俺が最高に気持ちよくしてやる」

「遠慮します」

「じゃあ俺を好きにしてくれ。何でも受け入れる」

「他の奴に頼んで。誰でもいいんでしょ?」

「まさか。ネル、お前限定だ」


熱く情熱的に誘ってくる日々が続いており、もはやこの光景は7番隊の名物となっている。


「ジガルデさん、他の隊長から誘われても断ってるらしいですね」


見慣れた光景になってるせいか、アリアドは私とジガルデを無視して平然と業務を行っている。

副隊長として止めるべきだろう…

他の部隊の隊長って皆男だろうが、あいつら…


「俺はネル専用の性奴隷だからな」

「…そんな嘘を本人が言いふらしてるから私に変な噂がたつでしようが?!」


そう、私は何故か銀の獅子を性的に躾たと噂されるようになっている。

その噂を信じた王子まで、興味があるらしい…平和になって婚活どころではなくなった。

全部こいつのせいで!


「ネルと俺の子供、早くみたいなー」

「は?」


私が間抜けな返事をしているとアリアドが瞳を輝かせた。


「ジガルデさん、とうとう隊長とやったのですか!?」

「はぁ?!」

「いやーまだだけど、もう近いよ。うん。精子には自信があるんだ」


どんな自信?!いや、知りたくはないが…

私がぐいぐいジガルデを押し退けていると、隊長執務室の扉をノックする音が響いた。

ジガルデは仕方ないと私から離れるとアリアドが扉を開ける。

そこには王子の使いが立っていた。


「エクセル王子より極秘任務を預かってきました」


そういうと王子の正印が押してある手紙を私に渡してすぐに去っていった。

その内容は…


「…むり…」

「ネル隊長?」


私は急いで受け取った手紙をくしゃくしゃと丸めて隠した。


「なんでもない!次の隊長議会変更の案内だ」

「そうですか」

「…」


アリアドはやれやれといった感じで流してくれた。


『明日夜、我の部屋に銀の獅子と来い』


それが何を意味するのか、私はすぐに理解した。

性的に躾る方法を教えろということだろう。

王子はまだ若いので好奇心が旺盛なのはいいことだ。

出来るなら、まともな何処かのお姫様と平穏に結婚して欲しいと思っている。

王子の命令を無視することは出来ず、夜ジガルデと王子の部屋を訪ねた

待っていたと部屋に通され、ソファにエクセル王子がガウン姿でリラックスして座っていた。


「よくぞ来た」


私は膝を付き頭を下げるとそのすぐ後ろでジガルデが同じように挨拶をする


「ネル」

「は」

「銀の獅子を手なずけたと聞いてな。その方法をやって見せよ」


困った……やってみろと言われても正直特別な事は何もしていない

私が返答に困っているとエクセル王子が立ち上がりジガルデの前で止まる


「抱いてやる。服を脱げ」


そう静かに告げると一瞬ジガルデは躊躇したが静かに服を脱ぎだ出した

私はなんでこんなことになっているのかとわからず焦った


「エクセル王子!彼は、違います!」

「ほう」


つい口に出してしまった自分を責めた


「彼は……ジガルデは幼なじみで……」


エクセル王子の瞳は細くなり私を睨んでいた


「性奴隷ではございません」

「なら、これを抱いてないと?」

「はい」

「一度もか」

「はい」


だんだんと恥ずかしくなって少し頬が赤くなる

エクセル王子は私の様子を観察している


「その剣に誓ってだな」

「はい!」

「わかった、ならネルお前がわたしの相手をしろ」

「!」

「!」


ここで言うエクセル王子の相手とは夜を共にすることだ

王子には相応しい相手が準備しているはず。

いち部隊長がそんな対象になるとも聞いたことがない

しかし、王様の次に権力があるエクセル王子の命令に背くわけにはいかない。

私は承諾をするしかないと思った


「わか「発言をお許しください」!」


私が返事をしようとした時、エクセル王子の側にいたジガルデが言葉を挟んだ


「なんだ」

「わたしなら必ず満足して頂けるご奉仕が出来ます」

「ほう」


騎士の上着ボタンを数個外して熱のこもった瞳でエクセル王子を見つめているジガルデの色気にわたしは息を飲んだ

エクセル王子は冷静さを保っているがジガルデから視線を外すことが出来ない。

これは……チャーム


「どうぞ、今宵の相手はわたくをご指名下さいませ」

「わかった、来い。ネルは下がれ」


待って……

私は青ざめて何か言おうとするとジガルデに睨まれた

それはまるで、何も言うな、邪魔をするなと言っているようで

まさか、王子の首を狙っている?でも……ジガルデの部下がいるからそんなことしないと信じたい

それより、私の代わりにジガルデがエクセル王子の相手をすることになるなんて……止めなくてはいけないのに、私は声が出ない。

ふたりの姿は奥の寝室に消えていった。

頭が重い……吐き気がする……

私は過度のストレスを感じたせいか具合を悪くしてトボトボと歩きエクセル王子の部屋をでて自分の隊舎入り口に座り込む。

それから何時間そこにいたかわからない。

夜が更け、いつの間にか日があがり出していた。

そんな時間になってもジガルデは戻らなかった。

朝、呆然として座っている私に気が付いたのはアリアドだった。


「隊長!どうしたのですか!?」

「……ああ」

「ああって、顔色悪いですよ」


そう言うと手を私の額に当てる


「熱もある!こんなに身体を冷やして……何が……」


言えないし、言わない。

私は自分の不甲斐なさ無力さに嫌気がさしていたのだ。


「なんでもない」


そう告げて部屋に戻ろうとしたがアリアドに肩をつかまれた

大柄で力も強いアリアドに力では勝てない


「何でもなくないです。俺はネル隊長の副隊長です!誰に何をされたのですか!」


殺気に満ちた瞳をしているアリアドは本気で私の心配をしている。

部下が取り乱す程、上司は冷静になるもので、彼に心配をかけているのだと反省した。

私は肩を掴んでいるアリアドの手にそっと手をのせ

小さく微笑むとその手首を持って上体を下げてアリアドを投げ飛ばす

アリアドは突然投げ飛ばされ驚き倒れていた


「ありがとう、アリアド。私は大丈夫だ。」

「……それは良かったです……」


そうだ、何か考えがあってジガルデはあの行動をとったのだ。

私が不甲斐ないのは間違いない、だけどそれを思い悩んでなんになる。

いつもの騎士隊長の顔に戻り私が隊舎に入るとその後に背中を押さえながらアリアドがついてきた


ジガルデが七番隊に戻ったのはその日の夕方だった。


「ただいま」

「……」


隊長室で私は黙ってジガルデを睨み付ける

昨日とは違う衣服を着て整えられている髪からも昨晩エクセル王子と何があったかは簡単に想像出来る。

私も子供ではない。


「……」

「……」


無言のジガルデは苦笑いを浮かべていた。


「そんなに睨まないでくれるかな」

「何を考えているの。チャームを使ったわね」

「……前にも言ったように俺の目的のために必要だから」

「目的とはなんだ、答えろ」


私はジガルデに近付き、腰に下げていた剣を抜いて剣先をジガルデの首に当てた

答えによってはその首をはねなければいけない

ジガルデは至って平常な目で私を見つめている


「妾になること。身の安全と将来の保証、それだけだ」

「ジガルデ」

「もういいだろう?俺は疲れているから。」


私が剣を下げるとジガルデは出口に向かった

そして、部屋を出ていく間際


「そうだ。明日から王子の側室の間で過ごすことになったから」


そう私に告げて去っていった。

私のせいではない?

自分から望んで?

何が真実なのかわからない。

宣言通り次の日ジガルデは七番隊から出ていった。

騎士達の中では噂が広がり、私やジガルデの部下達は陰口を言われたが七番隊の仲間達だけはそうではなかった。


「ネル隊長は男漁りが上手いらしいな」

「ハーレム作ってるらしいぜ。あの捕虜も躾て王子に献上したとか」


隊長会議のため総合棟に向かっていると下品な陰口が聞こえてきた。

私の少し後ろを歩いていたアリアドが不機嫌な顔をする

そんな彼に私は平常心で話しかけた


「気にするな。無視だ、無視」

「しかし、ネル隊長」

「反応すればするほど相手も喜ぶだろう。腹が立つなら実技演習のときぶっ倒してやれ」


戦いが終わり、兵士たちのエネルギーがありあまり定期的に隊交戦の演習を行っている。

一番隊、四番隊の次に我ら七番隊は勝率が高い

あと4回戦って一番勝率が高い部隊に国から褒美があ

ジガルデが私の側からいなくなって数週間が経とうとしている

最近やたらと異性から誘いを受けるようになった

きっと、これも悪い噂のせいだろう

隊長会議では今後の部隊編成についての議論があった

全10部隊戦いが終わったので縮小するというものだ

エクセル王子が上座に座り私に気が付くとじっとこちらを見ている

私は何だか気まずくて視線を合わせることが出来ない。

会議が終わるとエクセル王子に呼び止められ、他の隊長たちは意味深な表情を浮かべて帰っていった

会議室には私とエクセル王子とその護衛のみである


「いかがなさいましたでしょうか?」

「部隊縮小だがどう思う」

「異論はありません。ただ、縮小のため退団する者達に次の職は必要だと思います。出来るだけ本人達の希望に沿った職を準備してあげたいものです」

「それぞれの特性を活かした職か。無能を切ればいいと言うものでもないか」

「はい」

「……少し構想をまとめたい。わたしの部屋に来い」

「は」


何でもない事のように部屋に来るよう命令してきたエクセル王子に私は要らぬ心配をしてしまった。

私はアリアドに先に帰るよう指示をして

エクセル王子の部屋にはいると護衛は部屋の外で待たされ、私とふたりきりだ。

組織資料を広げてエクセル王子は何が考えているようだ

いくつかのアドバイスを求められ私は的確に回答する。

そして、一通り構想が終わるとエクセル王子は部屋に備えている冷蔵庫からワインを取り出し2つのグラスに注ぐ


「飲め」


ひとつ渡されて私は命令に従い飲んだ。

とても美味しいワインだ


「わたしはネルお前に片腕を任せたいと考えている」

「ありがとうございます。勿体無いお言葉です」

「女としてもだ。わたしのものにならないか」

「……それは……」


エクセル王子は手に持っていたワインをテーブルに置いてわたしとの距離をつめてきた


「ずっと特別な目で見ていた。ネル」


わたしの髪を少し掬い上げて唇に近づける

その間も私から視線を外さなかった


「エクセル王子!わ、私は年増ですし若い子が」

「年上の女性が好みだ。それが恥じらいを持っているなら尚いい」


私はボンっと顔が真っ赤になった

どんどん迫ってくるエクセル王子をどうしたらいいか悩んでいると

扉を開ける音がする


「約束が違いますよエクセル王子」


その声の主はジガルデだった。

妾となった彼はかなり不機嫌な顔をしてこちらに向かってくる。

ハ!これでは私がエクセル王子を誘って逢引していると勘違いされた!?

そう思っているとジガルデは私の肩を掴み自分に引き寄せエクセル王子を睨む


ん?


「マリア姫との縁談を白紙にしたいのですか」


マリア姫?

確か敵国の王女で、ジガルデが逃がしたはずの姫の名前だ

エクセル王子に向かって堂々とした態度をとって睨んでいるジガルデの様子は妾ではない?

私は目をぱちぱちして状況が飲み込めないでいるとジガルデは横目で私を見て更に身体を引き寄せる


んん?


「それは困るな。だが、わたしも欲張りでな。ネルを手放したくないと思ってしまう」

「約束さえ守って頂ければ、わたし共々国を支えます。しかし、ネルに手を出すのであれば……」

「そんな怖い目で睨むな銀の獅子よ。わかった、天秤にかけるとお前とマリア姫を選ぶべきだな。」


エクセル王子は少し残念といった瞳で私を見つめる


「わたしが王子と言う立場でなければ迷わずネル、お前を選んでいた。幸せにしてもらえ」

「……はい?」


その言葉の意味を理解しようとしていると私の肩を抱いていたジガルデが部屋から私を連れ出した

しばらく歩くと私はジガルデに問いかけた


「どういうことなの?説明して」

「エクセル王子はマリア姫と縁談を極秘で進めている。あのふたりは幼馴染みで、相愛だ」


知らなかった……


「俺が彼女との橋渡しをしている。」

「じゃあ、約束って」

「……成功したあかつきにはネル、お前を娶る許可をもらう約束だ」


娶る……って結婚!?

私は自分の耳を疑った。

私が足を止めるとジガルデは耳を赤くして視線をそらしていた


「ちょっと待て、頭を整理させて。えっと、ジガルデはエクセル王子の妾じゃないってこと?」

「当たり前だ。」

「だって、目的は」

「……強いて言うなら、俺はお前の妾になるのが目的かな」


私はじわじわと顔が熱くなる

性奴隷の次は妾……

ジガルデは私の肩から手を離すと私の前に膝間つき私の左手をとって見上げた

シルバーの前髪の隙間から見える、その紺色の瞳は美しく、情熱的だった。


「わたしの全てをカミーラ・ネル貴女に捧げます」


その告白に私は胸が締め付けられ、身体が心がけ熱くなる


「っ……まさか、チャーム使ってないでしょうね……」


私が弱々しく問いかけるとジガルデは苦笑いをした


「使ってません。これは俺の本心だから。ずっと子供の頃から好きだった」


私の心は落ちた。

心臓のドキドキと嬉しさで涙が出てくる。

涙目になっている私にジガルデは優しく微笑みかけて立ち上がり、そっと包み込むように私を抱き締めた。


※※


隊交戦演習はあれから全勝し第七番隊は優勝した

褒美として我が部隊が望んだことは……


「は?」

「だから、結婚式ですよ」


アリアドが隊員全員にアンケートをとった結果、私とジガルデの結婚式を盛大に行うといったものだった。

集会で集まった時に発表された内容に部隊のみんなはニヤニヤとしている。

ジガルデは今だマリア姫とエクセル王子の件で根回しに飛び回っているが、来月ふたりの婚約は正式に発表されることが決まっている

彼が私に正式にプロポーズしたことも誰かが故意に情報を広げていた

折角の褒美をそんなことに使わなくてもと思ったが、彼らの思いやりは正直嬉しかった。


「ありがとう……」

「我らの隊長の祝いです。盛大にやりましょう」

「う…みんなぁ…。そうだな、よし。お礼にみっちり鍛えてあげる!今日の稽古は3倍だ!!」

「え」


私が提案した瞬間、みんな顔が固まった。


おしまい

最後まで読んで頂きありがとうございました!


騎士ものプラス捕虜ものが書きたくて…

設定甘いところは大目にみていただけますと嬉しいです(*^^*)


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