第9章 イブの運命 第1話 お嫁さん?!
『ゴーレム国』王宮の最上階......街中を見下ろせるそんな贅沢な空間に造られた庭園は、今日も眩いばかりの朝日に包まれていた。誰が最初に呼んだかは知らないが、『空中庭園』......正にそんな名に恥じぬ神秘的なオーラを放ち続けている。
全く、こんな悪趣味な庭園に無駄金をつぎ込むなんて......シーザーの気が知れないわ。
国王アダムの母たるベーラは、忌々しき表情を浮かべながら、眼下に広がる『ゴーレム国』の街を見下ろしていた。そこに暮らす人々は皆、各々の業に精を出し、日々笑顔が絶えない。まるで遥か50メートル上方、王宮の最上階たるこの『空中庭園』にまで、そんな人々の活気が伝わって来るようだ。
ウジャ、ウジャ、ウジャ......まるでウジ虫ね。見てるだけで背中が痒くなってくるわ。こいつらがこの星の大事な資源を食い潰してるんじゃない! もうそろそろ害虫駆除を始めないといけないわね......
あら、やだ......毛虫だわ。
ガサッ、ゴリゴリゴリ......
ベーラは何の躊躇も無く毛虫を足で踏み潰し、靴底で何度も地面に擦り付けた。足を上げてみると、潰れた毛虫の体液が靴底をオレンジ色に染めている。
全く......役立たずの生き物ってものは、死んだ後も人に迷惑を掛けるのね。穀潰しの貧乏人と変わらないわ......ポイッ!
ベーラがそんな汚れた靴を『ゴーレム国』の活気有る街に投げ飛ばした。すると......
「お母さん......僕お腹空いたよ」
「あら、アダム......いつの間に来てたの? ちょうどいいわ、こっちにいらっしゃい」
「うん......」
トボトボトボ......
全く、朝っぱらから冴えない顔して......ほんと大丈夫かしらこの子は? ちょっと甘やかし過ぎたかしらね。教えるべき事はちゃんと教えとかないといけないわ。と言う訳で、
「アダム、ここから街を見下ろして」
「うん......今日も人がいっぱいだね」
「この街にはどんな人と、どんな人が居る?」
「う~ん、難しい質問だな......男の人と女の人? かな?」
「違うわ」
「じゃあ......年寄りと若い人!」
「それも違うわね......いいアダム、よく覚えておきなさい。この世には、他人を使って幸せになる人と、他人に使われて不幸になる人の2種類しか居ないの。あなたは幸せになりたい? それとも不幸になりたい?」
「もちろん、キレイで強いお嫁さん貰って幸せになりたい!」
ダメだこりゃ......全然あたしの言いたい事を理解してないわ。かと言って、ここで諦める訳にもいかないしね......
「いいアダム、これは生きてく上での大事な教訓よ。これからは自分の幸せの為に、どんどん人を使いなさい。万民をとことん使って、使い潰しなさい。それでもし使えない人間が現れたなら、あっさりと切り捨てるのです。それが出来なけれぱ、あなたは国王として、幸せになれないのですよ」
「分かった。いいお嫁さん貰う為に、僕いっぱい切り捨てるよ!」
分かったのか、分かって無いのか?......どうやらあなたの頭の中は、お嫁さんの事でいっぱいみたいね。ふぅ......あたしが、1つ大きな溜め息をついたその時だった。
「ベーラ! アダムを捕まえたみたいだぞ。間も無く王宮に引き連れて来るそうだ!」
「あら兄さん、知らせてくれてありがと。そう......ソニアの息子を捕まえたの。フッ、、フッ、、フッ......アダム、あなたもいらっしゃい。面白いものが見れるわよ」
「うん、行こう!」
真のアダムを殺す事しか考えていないベーラと、お嫁さんの事しか頭に無いアダムは、2人仲良く揃って『王座の間』へと向かって行った。もちろんこの後、そこに真のアダムは現れない。現れる者が居るとすれば、類い希なる美を持ち合わせたその者に他ならない。そしてその者は、言わずと知れた弓の達人たる強者、イブだった......
ルンルンルン......
いいものって何だろう? まさかお嫁さんだったりして?
いつの間にか歩行がスキップに変化を遂げている能天気な『偽アダム』。この後、物語は究極の三角関係へと発展を遂げて行く訳なのだが......




