第14話 よし、見えた!
俺がそんな魂の叫びを上げたその時だった。
ピタッ......突如身体が凍り付いたかのように動かなくなってしまった。別に自らの意思で動きを止めた訳じゃない。なのに、なぜか引いた弦が手から放す事が出来なかったのだ。その時俺は一体何が起こったのか全く理解する事が出来なかった。すると耳元で......
「命の恩人を罪人にする訳にはいかない」
そんな声が聞こえて、初めて俺は何が起きているのかを理解した。何者かが背後で俺の身体を力強く押さえ付けていたのだ。軍隊を引退したからと言って、そう易々と押さえ込まれる程、俺の身体は柔じゃ無い。しかも......今耳元で聞こえた声は、明らかに女の声だった。まさか?!
「テ、テルさん?!」
慌てて振り返って見ると、それはその者に他ならなかった。
「パブロフさん......その弓をあたしに渡して」
「弓を渡せって......あんたどうするつもりなんだ?」
「いいから、ここは任せて......あたし、失敗しないから」
正直、この時俺の目に映ったテルさんは、女神のように美しく、そして自信に満ち溢れていた。この人に任せておけば、全てが上手くいく......理由は分からないけど、直感的にそう思えた事だけは事実だった。
俺はまるで操り人形にでもなったつもりで素直に弓と2本の矢を手渡していた。
「だ、誰だお前は?! ここは女の出る幕じゃ無いぞ!」
「その女を見くびったような言い方......好きじゃ無いな。あたしはパブロフの妻、そしてその子の母親よ。名前はテル。この人はお国の為に戦場で怪我をして弦を引けない身体なの。代わりに妻のあたしがリンゴを射抜きたいんだけど......それでいいわよね?」
「なんだと?......お前が射抜くだと?」
「おいテルさん! そりゃ無茶だ! あんた素人だろ?!」
そんなテルの出現に、ギャラリーも俄にざわめき始める。ザワザワザワ......
「おっと、思わぬ展開に発展して来たぞ。なんかあの軟弱女が代わりに射るみたいじゃないか!」
「面白くなって来たな! でもあんな華奢な身体じゃ的まで矢が届かんだろう」
「よ~し、1,000ペリカは頂きだ!」
「いや、またまだ! 勝負は下駄を履くまで分からんぞ!」
いつの間にやら広場はお祭り騒ぎ。噂を聞き付けた野次馬が時間と共に増えてきている。
「よし、ならばお前に弦を弾かせてやろう。ただし射損ねたら、お前の首も跳ねる事になるぞ。それでいいんだな?」
「上等だ」
「ならば好きに射るが良かろう」
よしっ!
あたしは手に持つ弓を力強く握り締めた。見れば思いの外しっかりと造られてる。これなら射た後の誤差は少なかろう。問題はと言うと......やっぱこの風だな。
南西に風速10メートル......と思った途端、今度は北東に風速7メートル......風向きが目まぐるしく変わってる。落ち着け、落ち着け......あたしはゆっくりと目を閉じた。そして身体中の神経を皮膚に集中させる。
いつの間にやら、ギャラリーの雑音も耳に入らなくなっていった。降り付ける雨も感じなくなっていく。風を感じろ......風を読め......風を味方につけろ......そして、風を支配しろ!
よしっ!
見えた!




