第9話 大きな洞窟だった
「おう、ここだ、ここだ......何度来ても1回じゃたどり着けんわ。ハァ、ハァ......」
「ここって......何も見えないんですけど」
「待っておれ、今明るくするから......」
ボッ、ボッ、ボッ......
一体、何をしてるのかと思ったら、ボッ、と言う音が立ち上がる度に、終着点なるこの空間に灯りが点されていく。どうやらバーバ様は、等間隔に置かれたロウソクに火を点けてるみたい。やっぱその備えって、ちょくちょくここへ来てるって事なのかな?
などと思ったのも束の間......
「うわぁ......凄い......」
露となったその空間を目の当たりにして、私は思わず唸ってしまった。それが一体何なのかは分からなかったけど、目の前に大きな『人』が安らかな表情を浮かべて、じっとこっちを見ている。
安らかと言うか、苦し気と言うか、悲し気と言うか......とにかく、色んな感情がおり混ざった複雑な表情である事は間違い無い。それでとにかくやたらと大きい。
「マリア様......この人はそんな名前のお方だそうじゃ」
「マリア様......ですか。この方、なんか私達の未来を嘆いてるように思えてなりません。私達の未来って......そんなに悲しいものなのでしょうか?」
「そうか......リラにはこのマリア様の顔が、悲しそうに見えるんか?」
「バーバ様には、どう見えるんですか?」
「マリア様の表情は、見る者の心をそのまま写し出しとる。わしはこの世に生を長らえてから、早90年。喜びも無ければ悲しみも無い。マリア様の表情を見て感じるものが有るとしたら、それは『無』くらいかのう」
私には、マリア様の表情から『悲しみ』しか感じ取れないな......
ねぇ、赤ちゃん......あなたなら、マリア様の表情から何を感じ取れる?......あら、ダメだわ。スヤスヤ眠ってる。
あらためて周りを見渡してみると、そんなマリア像以外にも、これまでに見た事の無いような不思議なものが、この洞窟内にはいっぱいちりばめられていた。
祭壇......ここで誰かがマリア様にお祈りしてたのかな? 古びてはいるけど、しっかりした造り。目をそば立てて見てみると、花だったり、動物だったり......多種多様なものが、きめ細かく、この祭壇には掘り込まれている。
兵士の土偶......マリア像を取り囲むかのように、複数配置されている。多分、マリア様を守ってるんだろう。私達がここに入って来た途端、なんだか目が鋭くなったような気がした。動き出したらどうしよう......私達は決して怪しい者では有りませんよ!
そして、私の目を一際引いたものが所狭しと描かれた壁画だった。虫、動物、建物、人間、そして人間ならざるもの......あらゆるものが描かれている。
『バーバ様......この絵は一体何を意味しているのでしょう?』
「リラよ......わしがお前に見せたかったのは、この壁画だったのじゃよ。風化の度合いからして、200年から300年前に描かれたものじゃないかのう」
「そんな昔に......分かりました。しっかりと見させて頂きます」
流し目で見ただけじゃ分からなかったけど、松明の灯りを近付けてみると、それが決して微笑ましいようなもので無い事に驚かされてしまう。
「こっ、これは?!」
その壁画の内容を理解した途端、私は思わず赤ちゃんを抱く腕に力が入ってしまった。
「ウッ、ウッ、ウッ......」
ハッ! っと我に返り、赤ちゃんの顔を見詰めてみれば、苦し気な表情を浮かべている。
「ごっ、ごめん!」
慌てて私の脳は、腕に力を緩めるよう、伝令を送った。