第3話 大騒ぎ!
正直、ちょっと嬉しかった。だって何の力も持たないあたしが、愛するオリバーさんの役に立てたんだもん。うふっ......あたしが布切れの中で思わず薄ら笑みを浮かべたその時だった。
バタンッ! ガタガタガタ......
突然、調理室の扉が乱暴に開けられて、無数の足音が響き渡って来たじゃないの!
なっ、何事?!......あたしが心の中でそんな叫び声を上げるよりも早く、
「どうしたんですか、いきなり?!」
片付けを始めていた先客の1人が、慌てて問い質した。きっと彼らに取っても、予期せぬ来訪者だったんだろう。
「小娘を見なかったか?!」
「小娘って......えっ、まさか?」
「そうだ。『オリーブ大陸』で捕らえたあの『下手人』だ!」
な、何よ『下手人』って! それってあたしの事? 全く、失礼にも程があるわ!
「まさか逃げた......とか?」
「そんな事はお前らに関係無い。ちょっとそこどけ!」
バタンッ、ガタガタガタ......
バタンッ、ガタガタガタ......
不味い......手当たり次第に探し始めたわ。きっと隅々まで探すつもりよ。
困ったな......どうしよう、絶対に見付かっちゃうじゃん! でもまぁ、相手は2人か......たったの2人ね。う~ん、どうする? やっちゃう? うん......やっちゃおう!
斯くなる上は強行突破! ふん、あたしを誰だと思ってるの?! 『ダーリン村』一の射手、泣く子も黙るイブ様よ!
とまぁそんな経緯で、あたしはボロ切れを振り払い、勢いよく立ち上がった。そんでやる気満々で言ってやったの。
「あんた達が探してるイブ様はここに居るわ! あたしは逃げも隠れもしない! 正々堂々と勝負しなさい!」
何て勇ましく言ったはいいけど、弓も矢も持っちゃいない。でも代わりにしっかりと握ってた。そこらじゅうに転がっている『玉ねぎ』をね。そんなもん握ってどうすんのかって? 決まってるじゃん!
ノーワインドアップ! 振りかぶって、せ~の~、
「てやぁー!」
ピュー......ゴンッ!
「うっ......」
見事頭に直撃! 直ぐに1人が崩れ落ちたわ。あたしの脳内スピードガンは100マイルを計測。ヘルメット無しでビンボールをくらった打者の頭は、見事なまでに陥没よ。予定通りだわ。
「よし一丁上がり! さぁ次!」
あたしが次なる『玉ねぎ弾』を手に取ったその時だった。残ったもう1人が何やら変な事を言い始めたの。
「ア、『アダム王子』が居たぞ! こんな所に隠れてやがった!」
えっ? なに? アダム王子? 『王子』ってなに?!
話の流れからすると、あたしはオリバーさんと間違えられて『ゴーレム国』に連れて来られた。つまりそれって、オリバーさんが『王子』......『ゴーレム国』のアダム王子って事になるんじゃない?!
「ちょっとあなた、今あたしの事を『アダム王子』って呼んだわね? それってどう言う事? ちゃんと説明しなさいよ!」
あたしはセットポジションに構えを変えて、暫し投球を待つ事にした。だって先に玉ねぎ投げちゃったら、答え聞けないもんね。
「そんな事、お前が知る必要は無い! 大人しく観念しろ!」
勇ましくそんな言葉をあたしに投げ付けたそいつは、恐れ多くも足元に転がってた木の棒を振りかざしてる。
あらら......あたしの100マイル『玉ねぎ弾』を打ち返すつもりね?! 面白い......この勝負受けて立ちましょう!
てな訳で......
「そうりゃあー!」
ヒュルルルル~!
「フンガァー!」
バカね......フルスイングしてるわ。カーブよ。
バコンッ!
「うっ!」
バサッ......
そして敵は敢えなく崩れ落ちた。
「ひえ~!......」
見れば、調理人の2人が早くも戦意喪失。地べたにへたり込んでる。
「どうする? あんた達もあたしと勝負すんの?」
お手玉換わりに玉ねぎを回しながら言ってやった。
「い、いいえ。滅相も無い!」
「あらそう......つまんないわね」
こんなとこに長居したって、ろくな事は無い。あたしは2人をひょいと跨いで、調理室を出て行った。どうやら船中が大騒ぎになってるみたい。