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第13話 鉄壁の『いかだ』

やがてマリア様は馬に乗ったまま、今度は草原から海の中へと突き進んでいった。俺も脇目も触れずにその後へと続いていく。


正直、この時点で俺は間違いなく死の世界をさ迷ってたと思う。だって馬に乗って海の中を走り回ってるんだぜ。全然息苦しく無いし、生きてたら有り得ん話だろ。


それがだ......今度は生きてんのか死んでんのかよく分からん事態に発展してった訳さ......


ザバッ、ザバッ......何か音がするから後ろを振り返ってみた。すると、ゲ、ゲ、ゲッ! なんと、無数の背びれが物凄い勢いで追っ掛けて来てるじゃんか!


奴らのそんな姿を見せ付けられたら、ん? なんだ? 俺はまだ死んで無いのか? なんて期待しちゃうのも無理の無い話だろう。だってさっきまで俺は、現実の世界でこいつらと戦ってた訳なんだからな。


今思い返してみれば、きっとここは生死の狭間だったんだと思う。この後、死ぬ事も出来たし、生き帰る事も出来たし......きっと神様が采配を迷ってたんじゃ無いだろうか。



やがて背びれ達が一気に俺の身体を包み込んで行った。ブクブクブク......気付けば俺は、大きなバブルに包まれている。それはまるでゆりかごに乗ってるようだった。


何だか気持ちいい......ユラユラ揺れながら、天空に昇っていくような感触だ。ああ、やっぱそうか。俺は死んで行くんだ......このままお星様になるんだな......きっと神様は今頃、親指を下に向けてるんだろう。イブ、ごめんな......



ブクブクブク......


フワフワフワ......


ブクブクブク......


フワフワフワ......



............


............


............



ザバッ、ザバッ......



............


............


............



キュ~......キュ~......



............


............


............



「お前は......」



............


............


............



キュ~......キュ~......



「あの時の......」



............


............


............



「キュ~、キュ~!」



それまで閉じていた目を俺はゆっくりと開けてみた。すると、視界に真っ先に飛び込んで来たものは......布切れをグルグル巻きにしたイルカの姿だった。



「お前が助けてくれたのか......」



吹き付ける雨風、嗅覚を刺激する汐の香り、そして柔らかいイルカの肌触り......それは決して、死の世界でも死の狭間でも味わう事の出来ない、正にここが『生なる世界』である事の証と言えた。



「俺は生きてる!」



どうやら神様は、まだ俺に死ぬ事を許さなかったようだ。ならば神様、教えてくれ......あなたは一体、俺に何をさせようとしてるんだ?......


見れば、いつの間にやら『未知なる大陸』が眼前に迫り来ている。神様、分かったよ......あの大陸にその答えが待ってるって事なんだな。いいだろう......俺に百難を与えるがいい。神様に救って貰ったこの命......あなたの自由にされるが良かろう......



振り返ってみると......


アダムは、1匹の傷付いたイルカを救うが為に『オリビア号』から離れた。その結果、船には戻れなくなり、嵐、人食いザメ、更には巨大クジラ......想定外の災いに巻き込まれる結果となった。


ならば、もしイルカを助けなかったとしよう......『オリビア号』は残念ながら、高波に飲まれてその後バラバラになっている。結局最後はサメとクジラの餌食になっていたのでは無いだろうか......


もしかしたら、神はアダムを確かめたのかも知れない。この者が国王になる者として、それに相応しい人間かと言う事を。苦しむ民を救うだけの器量を持ち合わせているかどうか......それを見極めようとしたのでは無かろうか。


今ここにアダムは、死ぬ事を許されず、爛々とした目で未知なる大陸を見詰めている。それはまるで『神』の魂が宿ったかのようだった。



ザブ~ン、ザブ~ン......



相変わらず海は荒れていた。しかし、今アダムが乗る『いかだ』が海の底に沈む事などは有り得なかった。



キュ~、キュ~!......



アダムを乗せた無数のイルカで構成された鉄壁の『いかだ』は、高波を諸ともせず、一直線に邁進を続けて行く。モニカが待つ『ポパイ大陸』へと向かって......


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