第10話 突然現れやがった
そして次の瞬間には、再びズボッ! サメの尾っぽを突き抜けて、見事脱出を成し遂げていたのだった。
オールを前に出して20メートル上空から落ちて来たんだぞ。普通に考えて貫通だろ......
よしっ、残るはあと1匹! 俺はすっかりと勝ち癖が付いてしまったようだ。三枚おろしになったサメを掻き分け、意気揚々水面へと浮上していった。すると、あらら......こいつは困ったぞ。
『イカダ』バラバラやん!
上げられたり下げられたり......今度は目の前が真っ暗になってしまった。取り敢えずは、目に付いた『イカダ』の破片にしがみ付くしか無い。
それにしても、波がどんどん高くなって来てやがる。いつの間に『ヨット』の姿も見えなくなってるしよ......
それにしても酷い暴風雨だ。こりゃあもう通り雨のレベルじゃ無い。ハリケーン......しかも特大じゃねぇか!
あとあれは何だあれは?! 海水がどんどん空中に巻き上がってるぞ! うそ~ん......よしてくれ、あれって竜巻だろ?
おいおいおい......『オリビア号』は大丈夫なのか? あれが海底に沈んじまったら、俺はもう終わりだ......
ところがどっこい、『オリビア号』は決して海底に沈んでなどはいなかったのである。では一体どうなってしまったのか?......その答えを知るまでに、然したる時間を要す事は無かった。
やがて、ヒュルルルル......バシャン! 竜巻に巻き上げられた物が突然目の前に落ちて来た。見れば何やら大きな木片が目の前にプカプカ浮いてる。
あ、危ねぇな......こんなのが頭に当たってたら死んでたぞ......ん? 待てよ......なんか書いてあるな?
どうやらそんな木片には、大きな文字が描かれているようだ。どれどれ......え~と、何て書いてあるんだ? オリ......ビア......号......だってさ。う~ん、そうかそうか、そう言う事か......
ヨット木っ端微塵じゃん!!!
あまりのショックに、俺は意識を失いそうになってしまった。それは正に、唯一残されていた生存への道が、閉ざされた瞬間だったと言えよう。
終わった......万策尽きた今の俺に出来る事と言ったら、ただ『オリビア号』の看板にしがみ付いてる事くらいだった。
やがて20メートルクラスの高波が、何度も何度も頭に降り掛かり始め、残り少なくなった俺の体力を容赦無く奪い取っていく。気付けば、きっと気力だけで看板にしがみ付いてたんだと思う。
ザブ~ン! 1回波を被れば、俺の身体は1回海底に沈む。看板の浮力で水面に浮き上がれば、また直ぐにザブ~ン! 再び海底へと沈んでいった。こんな事を繰り返していくうちに、俺は一体どれだけの海水を飲み込んだんだろうか。肺は悲鳴上げ、意識も遠退き始めてる。
これが死の世界ってやつなのか......何だか、やたらと気持ちいいじゃねぇか......もうこの際、素直に手を放しちゃった方が楽なんじゃ無いか?
実際のところ、もうどうでも良くなってた。と言うよりか、ヤケになってた。俺が『不幸の元に生まれた子』だって? そんなの知るかってんだ! 何で他のみんなみたいに何で俺だけ『オリーブ大陸』で暮らせないんだ? そんなの不公平だろ......
それまで溜まりに溜まってた鬱憤が、この場に及んで一気に爆発したんだろう。俺がバシッ! しがみ付いてた看板に八つ当たりの一撃を食らわせたその時だった。
あらららら......お前まだ居たのか?
死に掛けてた俺の目の前に、突然現れやがった。なんと、残りの1匹が......