第8話 人生なめてた
このミスを帳消しにする為には、とにかく『オリビア号』へ戻るしか無い。エッホ、エッホ、エッホ......フルパワーでオールを漕いで見せるも、一向に近付いていく気配は無い。それどころか、むしろ離れていってる。
これは本気で不味いぞ......『オリビア号』が転覆でもして死んだんだったら、まだ言い訳が立つけど、イカリを下ろし忘れて死んだとあっては、末代までの笑い者だ。きっとご先祖様も一緒の墓には入れてくれないだろう。ここは踏ん張り所だ!......などと思ってはみたものの、この状況では踏ん張りようも無かった。絶対に何か方法が有る筈だ......俺は祈るような気持ちで海を見渡してみた。すると......
プカプカプカ......
ん、なんだあれは?
何やら水面から飛び出したイルカの背びれのようなものが、こっちに向かって来ている。もしかしたら......俺に助けて貰った事を恩義に感じて、さっきのイルカが仲間を連れて助けに来てくれたのか? イルカと言う動物はとにかく頭がいい......それはパピーがいつも俺に話してくれていた事だ。
1、2、3......全部で背びれが3つ見える。間違い無い! あれはイルカだ! とにかくいい事をすれば、必ず報われるものなのだ。この時ほどまでに俺は神に感謝した事は無かった。
見れば『オリビア号』は視界から既に消え掛けている。もはや自分1人の力では、どうにもならないような状況にまで、追い込まれていたところだった。
いつしか空一面に黒い雲が出現し始めていた。海の天気は変わりやすいとパピーが言ってたけど、その話に嘘は無かったようだ。ビュ~......風は強まり、徐々に波も高くなって来ている。おっとっと......俺は倒れそうになりながらも、「お~い、こっちだぁ!」両手を大きく降ってイルカ達に合図を送ってみせる。
そんな救世主達は、俺の期待通りにどんどん近付いて来てくれる。おうおうおう......結構大きなイルカだな。まぁ、大きい方が頼りがいも有るってもんだ。幸いにもロープは有るし、『オリビア号』まで引っ張ってって貰えば万事OK! こんなに上手くいっちまうと、何だか人生舐めちまうな。フッ、フッ、フッ......
因みに背びれが有る動物は、イルカだけとは限らない。もちろんそんな事を知らぬ俺じゃ無かったけど、少しタイミングが悪すぎたようだ。頭のいいイルカを助けた直後だけに、イルカが恩義を感じて助けに来てくれたと信じて止まなかった訳だ。
「お~い、お~い!」
なおも俺は、大声を張り上げてそんな『背びれ』達にエールを送り続けた。そんなエールに応えようとしてくれたのか、『背びれ』達は真っ白な水飛沫を大きく立ち上げながら、一気にその距離を縮めて来る。
もういい加減、気付けよ! って、神はきっと天上で苦笑いしていたに違いない。でも俺は元気に手を振っていた。更に笑顔も浮かべていた。そしてそんな笑顔が凍り付くまでに、3秒と掛からなかった。
バサッ!
朝日をバックに『救世主?』は、水面から飛び上がったのである。なんか......イルカっぽく無かった。
身体はやたらと大きいし、目はギラギラ殺気立ってるし、何よりも大きく口を開けていた。しかも異常に牙が鋭い!
カシャ、カシャ、カシャ......それはまるでストロボ撮影のような光景だった。
「サ、サ、サ、サ、サメ?」