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第7話 なんてこった!

備え有れば憂い無し! 積んどいてくれたパピーに感謝だ。てな訳で......俺は消毒液代わりの酒、針と糸、更に長布を担いで、一気に『イカダ』を海に落とした訳だ。


もちろん『オリビア号』と『イカダ』を長いロープで繋ぐ事を忘れちゃいない。この辺りはやたらと潮の流れが早いから、『イカダ』が流されたら2度と『オリビア号』には戻れなくなってしまう。


よし、これで万事OK!......俺は『イカダ』に飛び降りると、オールを漕いで一気にイルカの元へと近寄って行く。残念な事に......この時俺はイルカの事しか頭に無かったんだと思う。直球一本、一途な性格だったって事だ。


その証拠に、『オリビア号』の『いかり』下ろすの忘れてんじゃん!......なんて事に気付いたのは、随分と時間が経った後の事だった。


そんな事とはつゆ知らず......3メートル、2メートル、1メートル......逃げないで大人しくしててくれよ、などと祈るような気持ちでイルカに近付いていく、哀れな俺がそこに居た。



キュ~キュ~......



多分イルカの目にも、俺が悪人には映らなかったんだろう。大人しく待っててくれた。でも近くで見るとやたらと目が怯えてる。無理も無い......俺と同じ人間に『モリ』で突かれたんだからな。ごめんよ......


俺がイルカ君のヒレを掴んで、『イカダ』の上に引き上げようとすると、素直に従ってくれた。むしろ自ら飛び乗ってくれたと言った方のが、事実に近いのかも知れない。


人間は敵じゃ無い......きっと生まれつき本能として、ハードにインプットされているのだろう。



「よし、いい子だ......ちょっと痛いけど我慢してくれよ。痛いの痛いの飛んでけっ!」  



プスッ!



「キュ~~!!」



正直、リスクが有るのは分かってた。でもこんな『モリ』が刺さってたら、ろくに泳ぐ事も出来ないだろう。この弱肉強食の自然界でイルカが早く泳げなかったら、遅かれ早かれ、クジラに飲み込まれてしまう。だから、思い切って抜いてみた訳だ。


そして見事に抜けた......でも傷口からいっぱい血が出て来た。俺はそんな血に怯む事も無く、直ぐ様、口に酒を含んでプファー!......傷口に吹き掛ける。これもさぞかし痛かったに違いない。でもイルカ君は激しく尾びれをバタ付かせるも、決して海の中へ逃げ帰る事はしなかった。きっと俺の必死なる思いが伝わってるんだろう。この人は自分を傷付ける為に、やってるんじゃ無いってね......


その後は針で傷口を縫って、長い布切れをぐるぐるに巻き付けて一丁上がりだ。正直、俺のやって上げれる事はここまでだった。後はこのイルカ君の生命力に賭けるしか無い。別に自己満に浸ってる訳じゃ無いけど、同じ人間が仕出かした事だけに、ここまでやらないと俺は気が済まなかった。



やがて......キュ~!



バシャバシャ......



イルカ君は俺に『有り難う。どこのどなたかは存じませんが......』などと言ったかどうかは分からないが、少しは元気になって海へ戻って行ってくれたのである。


まぁ何はともあれ、いい事をした後は気持ちがいいな......などと感無量で久方ぶりに顔を上げてみると、遥か遠くに浮かぶ『ヨット』が朝日を背に受け、金色に輝いているのが見える。



おお......何て立派な船なんだ。俺はこんな『相棒』を持てて、本当に幸せ者だ......ふむふむふむ。満足気に腕を組んで、そんな壮大なる景色に見とれていた俺だったけど、ちょっとした違和感を覚えるまでに、然したる時間を要す事は無かった。



ありゃりゃ? 何で『オリビア号』があんな遠く有るんだ? しかも『オリビア号』と繋げた筈のロープが、弛んで海にプカプカ浮いてるじゃん。ああ......なるほど、そう言うことか......


『イカリ』を下ろすの忘れたから『オリビア号』が風に流されたって事だ。しかも慌ててたから、しっかりロープを結べてなかった。ほどけちゃってるわ。ふむふむふむ......



な、なんてこった!!!



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