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第5話 マルタの仕事

一方その頃、無人となった『バロック家』で起きていた事と言えば......



「くっそう! よくもこのマルタ様を地下室なんかに閉じ込めやがったな!」



バキッ! バコンッ! ミシミシ......



「おっと......扉にヒビが入って来たぞ!」



バコンッ!


ミシミシミシ......



バコンッ!


ミシミシミシ......



そして3度目の正直で、


バコバコンッ!


バキッ!......



「や、破れたっ!」



このマルタと名乗る人間......他でも無い。一昨日の夜半、砂浜に打ち上げられていた所を、この家の住人であるリラとボッカに助けられたその者である。


実際のところ、砂浜に打ち上げられたと言う事実はギミックであり、この『サマンサ村』に潜入するが為の『猿芝居』に他ならなかった。一体何の為に? その答えは言うまでも無い。真なるアダムを見付け出すが為に『ゴーレム国』のベーラの命で、遥々この村へやって来た『刺客』だからだ。


『刺客』と言っても、見付けて直ぐに殺せとは命じられていなかった。まずは引っ捕らえて、ベーラの前に差し出す事が使命だ。なぜかと言うと、この時代にはまだあいにく『写真』などと言う便利な産物が登場していない。


刺客の独断で誰かをアダムと決め付けて殺したはいいが、実際は別の誰かだったなんて事も有り得ぬ話では無い。なので少し回りくどくても、一旦はベーラの前に連れて行って本物かどうか吟味する事となったのであろう。



それにしても、余計な事を言っちまったもんだ......一体マルタが何をそんなに悔やんでいるかと言うと、



『この村で、おでこにアザが有る12才の子って居るかな?』などと、軽率にもこの家の人間に質問してしまった事だ。それのせいで地下室に閉じ込められたともなれば、自ずとこの家のオリビア怪しいと言う事になる。



①年は12才

②おでこにアザが有る

③結構な美形



もしこの家のオリビアが①②③に全て当てはまっていたなら、ほぼアダムで間違い無かろう......


あ~だこ~だ、あ~だこ~だとぶつぶつ語りながら『バロック家』の外へ出てみれば、もうすっかり夜の世界。村民達がちらほら祭り会場から歩き戻って来る姿が見える。


すると何やら1人の少女が、寂しげな表情を浮かべてトボトボトボ......どうやら、この『バロック家』へ向かって来ているようだ。少なくともかなりの美形で、年も12才前後。更にこの家に帰って来たともなれば、お待ちかね、オリビア登場!......きっと誰もがそう思うに違いない。そしてそんな美形女子は思った通り、この家の前で立ち止まった。そして一言......



「あなたは?」



向こうから声を掛けて来た。



「ああ......あなたがオリビアね。ちょっと訳有って、この家の地下室に一昨日から居候させて貰ってたの。きっとあなたのマミーとパピーはあなたに心配掛けたく無いから、あたしの事は伏せておいたんだと思うけど」



「ああ......そうなんですか」



間違い無い! 美形女子、12才前後、更にオリビアって名前だ。あと残るは一つだけ!



「ちょっとあなた、顔に何か付いてるわよ」



そう言って、何気にサラッと前髪をたくし上げてみた。すると......な、な、な、なんと! おでこに大きなアザがくっきりと浮かび上がっているではないか! ビンゴだ!



「ちょ、ちょっと、何するんですか?!」



バコンッ!



「うっ......」



突然不意打ちを食らったイブは、そのまま意識を失ってしまう。



「おいおいおい、いくら何でも飲み過ぎだって! 全く世話が焼けるなぁ、もう......」



マルタは過ぎ行く村民達に笑顔を振り撒きながら、酔い潰れた?友人を担いで、どこへと無く消えていく......行先は言うまでも無い。ベーラが待つ『ゴーレム国』だった。


オリバーが12年間過ごした『バロック家』をどうしても見ておきたい......そんな些細な乙女心が招いた大災難だったに違いない。



数日後......



ゴーレム国では、ベーラが烈火の如く怒り狂っていた。



「こいつのどこがアダムだ?! シーザーにもソニアにも全然似てないじゃないか! こんな奴いらん、とっとと火やぶりにしてしまえ!」



今はただ祈ろう......アダムの武運と、イブの身の安全を......



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