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第4話 大海原の覇者

イブとの再会を約束し、俺は夏祭り会場を後にした。マミーとパピーの背中を見詰めながら、俺はある事をふと思い出した。


そう言えば......最近になってこの2人は、毎晩のように外へ出て行ってた筈。朝早いのに何をやってるのかと、正直不思議に思っていたとこだ。でも今、それが俺の為だったと言う事が分かって、つくづく俺は幸せ者だった思う。


イブさんだけじゃ無く、この大好きな2人とも別れなきゃならない事がとにかく辛い。でも俺は決して涙を見せなかった。なぜならマミーもパピーも、涙を見せなかったから......きっと俺に心配を掛けないように、涙を見せないって約束してたんだろう。


全く......俺はそんな2人が大好きだぜ。過去も、今も、そしてこれからも......マミー、パピー。



やがて......前を歩く2人は足を止めた。それは入り江に隠れた洞窟の前だった。こんな所に洞窟が有ったなんて......生まれてこの方12年。正直初めて知った。



「オリビア......入って」



「ああ......」



カチン、カチン......



パピーが火打石で松明に火を灯すと、洞窟内がオレンジ色の世界に。そして俺の目の前に広がったそれは、今まで見た事も無い、極めて異様な姿をしていた。



「こっ、これは?!」



「オリビア......これはお前がこの大陸から巣立って行く為の乗り物だ」



「船なのか? でも......真ん中に立ってる太い柱とそれに掛かってる布は何なんだ?」



形状からして、それが船である事は間違い無い。でも俺の知ってる船と言うものには、こんな柱も布も無い。ただひたすらオールで漕いで前に進む以外の駆動を知らなかった。



「この柱と布は、お前のオールの代わりになってくれるものだ。この大きな布が風を受け、お前とこの船を動かしてくれる。私はこの船を『ヨット』と名付けた。


お前はこの『ヨット』を操り、遥か遠くに霞んで見える新大陸へ渡るのだ。お前の生きる場所はきっとそこに有る。それと......お前は『不幸のもと』に生まれた子供なんかじゃ無い。むしろこの星の未来に繋がる『希望の子供』だと思ってる。なぁ、マミー......」



「パピーの言う通り。あなたはどこへ行っても、あたし達自慢の可愛い可愛いオリビア。神様はきっとあなたの未来を後押ししてくれる事でしょう。ウッ、ウッ......ご、ごめんなさい」



「リラ......泣かないって約束したじゃないか。今日はオリビアの映えある旅立ちの日なんだから......ウッ、ウッ......」



愛すべきこの2人が、これ程までに小さく見えた事は無かった。もうこれ以上この2人を悲しませる訳にはいかない。その為には是が非でも生き抜いていかなければ......



「マミー、パピー......俺は必ず別の大地に渡って生き抜いて見せる。それでいつの日か必ずまたこの地へ戻って来る。だから......2人も俺が戻って来るまでは、絶対に生きててくれ。約束だぞ」



「分かりました......誰が死ねるもんですか。あなたと再び会うその日までは......」



「お前は特異希なる身体を神に与えられた。そのアドバンテージを最大限に活かせれば、これまで誰も征服出来なかった大海原を必ずや味方に付ける事が出来るだろう。な~に、きっと出来るよ。何と言っても、お前は、私とリラが育てた子なんだから」

 


「俺もその通りだと思うぜ。分かった......必ず生きて帰って来る! それじゃあ......行って来るぜ!」



「行ってらっしゃい。私達、いつまでも待ってるからね」



「大いに暴れて来い! お前はこの大海原の覇者だ!」



2人に勇気付けられ、俺は遂に果てしなき『次なる道』へと向かって、荒れ狂う大海原へと飛び出して行った。この先、俺にどんな困難が待ち受けているのかは全く分からない。神よ、俺に百難を与えるがいい! ただ俺は絶対に負けない。なぜなら、俺は大海原の覇者なのだから......



この世界は今、大きく変わろうとしている。その中心にアダムとイブが居る事など、この時点で2人は知るよしも無かった。



『ゴーレム大陸』『オリーブ大陸』『ポパイ大陸』......後に『ヨーロッパ』『アジア』『アフリカ』と呼ばれるようになったこの3つの大陸は、いよいよ戦下に巻き込まれていく......今はただ祈ろう。雨降って地固まる......そんな時がやって来る事を。



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