第3話 絶対に迎えに来るから......
「マミー......それにパピーも......」
大好きな2人を見た途端、そこにオリバーは居なかった。あたしはオリビア......そう、優しいマミーとパピーに12年間大事に育てられたオリビアがそこに居た。
「オリビア......12年間あなたを騙し続けてごめんなさい。あなたがこの大陸にやって来た時、当日この村の村長だったバーバ様と、あなたが12才になる前に殺すと約束したの。
その時バーバ様も今の村長さんと同じ事を言ってた。あなたは『不幸のもと』に生まれた子だと......でもこんなに親思いで優しいあなたを殺せる訳無いじゃない! だから私はバーバ様との約束を破って、何事も無かったようにあなたと大事な時間を過ごし続けて来た。でも......やっぱ運命は変えられ無かった。
今村長さんが言ったように、あなたはこの大陸で暮らすべきじゃ無い。あなたにはあなたに合った場所が必ずどこかに有る筈です。そこへ向かうのです」
「俺に合った場所......そんな所一体どこに? 仮に有ったとして、どうやって行けはいいんだ?」
「あなた......」
そんなあたしの切なき質問に対し、今度はパピーが口を開く。
「オリビア......この日がやって来る事は分かってたんだ。だから、随分前から俺とマミーで用意しておいた。さぁ、付いておいで」
「用意しておいたって......」
「いいから付いて来なさい......オリビア」
「分かった......」
正直、訳が分からなかった。この日の為に2人が一体何を用意してたと言うんだ......多分自分はこの後、住み慣れた『オリーブ大陸』とも、マミーともパピーとも、そして愛するイブとも、別れを告げなくてはならないのだろう。不思議と涙は出て来なかった。きっと悲しいんだろうけど、あまりに話が唐突過ぎて、頭と涙腺が付いていっていなかったんだと思う。
しかし、イブは違った。感情剥き出しにして、叫んでくれた。
「オリバーさん、あたしも連れてって! あなたが行く所だったら、地獄へでもどこでも行く。あなたの居ないこの大陸以上の地獄なんてこの世に存在する訳が無い!」
この後、俺に待ち受けてる地獄はきっと地獄以上の地獄だろう......そんな茨の道に君を連れていける訳無いじゃ無いか。愛してる......愛してるよ、イブ......
「全くしつけ~な! そう言う奴の事を『おてんば狐ザル』って言うんだ!」
「なによ! そんなあんただって、女心が分からない『ボケ、ナス、チキン野郎』じゃない!」
「おてんば狐ザル?......」
それって......
「ボケ、ナス、チキン野郎?......」
まさか......
「あなたのおでこに出来たそのアザ......」
あの時の......
「君のおでこに出来たそのアザ......」
あの時の?!
「おてんば狐ザルがイブなのか?!」
「ボケ、ナス、チキン野郎がオリバーさんなの?!」
互いのおでこに出来たアザの謎が、漸く解けた2人だった。やがて長い年月を経て呼び戻されたそんな記憶は、更に2人の心の奥底に隠れていた潜在能力を、一気に引き出していく事となっていく......
俺とイブの間に言葉はいらない......
やがて俺はイブの目をしっかりと見詰めた。そして......彼女の心に優しく声を掛ける。
イブ......ダンスの時、俺が言った事を覚えてるかい?
ダンスの時?
そうだ......
覚えてるよ......あたしを離さないって言ってくれた。
その通り......だから、必ず俺はお前を迎えに来る。
ほんとに?......
ああ、俺は絶対に嘘は付かない。だから......今はここで大人しく待っててくれ。
絶対に戻って来てくれる?!
ああ、絶対だ!
......分かった。
いい子だ......イブ。
オリバーさん......
俺は心の中に有る全てをイブの心に語った。そしてイブは、涙を拭って俺に笑顔で答えてくれた。そんなイブの顔を見て、俺は心に誓う。絶対に絶対に絶対に、俺は百難を乗り越えてイブを迎えに来るって事を......