第7章 大海原 第1話 これで終わりだ
物語は再び『オリーブ大陸』へと舞台を移していく......
そんな大陸の最南端、『サマンサ村』で開催されてるちょっとモダン? な夏祭りも、今、正にグランドフィナーレを迎えようとしていた。時系列で言うと、モニカが『ポパイ大陸』へと渡ってから、ちょうど2週間前に当たるその頃の話だ。
「イブ......」
「オリバーさん......」
『みんなでダンス』......そんな晴れの舞台で遂に再会を果たした2人は、ムード満点なバラード音楽に包まれながら、幸せの骨頂たる甘い時間を共有していた訳である。
しかし、長く続いて欲しいと思えば思う程、時間と言うものはあっさりと通り過ぎて行ってしまうもの。美男美女......余りにも2人がお似合いであるが故、もしかしたら神様が焼きもちを焼いてしまったのかも知れない。
ヒタヒタヒタ......
ヒタヒタヒタ......
ヒタヒタヒタ......
怪しき足音の数、凡そ10。更に、バサッ! バサッ! バサッ!......風を切るそんな物音は、束から引き抜かれた剣の音に他ならなかった。激しき殺気を放ちながら忍び寄るそんな悪しき足音は、幸福の絶頂に浸る年若き2人を一気に波乱の渦へと巻き込んでいく。
やがて......
「おい、オリビア......そこまでだ!」
突如背後から、ムーディーなBGMを打ち消さんばかりのラウディーボイスが響き渡る。
ん、なんだ?!......その時、俺の身体が一瞬にして凍り付いたのを、今でもよく覚えている。なぜなら今の俺の姿は『オリバー』。この姿を見て『オリビア』と呼ぶ者など、居る筈が無かったからだ。
そんな声を確認した途端、俺は即座にイブから離れ、殺気漲る背後へと振り返った。
「誰だ?!」
すると......
「お前、よくもイブを誑かしやがったな。イブが『ダーリン村』の民と知ってての狼藉だろ。そんな事してただで済むと思うなよ! おい、イブ......もう役目は終わった。こっちへ戻って来て構わんぞ」
いちいち数えた訳じゃ無いが、1山5人として2山は居ただろうう。因みに揃いも揃って全員剣を抜いてやがる。着ている服から察するに狩人......イブの事を馴れ馴れしくイブと呼んでるからには、きっとイブの狩人仲間なんだろう。
このいて好かない奴の話をまともに聞いちゃうと、あたかもイブがこいつらと結託して、俺を騙していたかのようにも取れる。
「ちょっとバロン、誤解を招くような事言うのは止めて! それと何剣なんか抜いてるのよ?! あんた達には関係無いでしょ!」
「関係無いだと? 残念だが、関係大有りだ。お前達は村の掟を破って毎晩森の中で密会を繰り返していた。それが大罪だって事は、お前も分かってる筈だ。イブ......一度だけチャンスを与えてやる。お前はこのオリビアに騙されて会ってただけなんだよな? そうだろ?!」
はは~ん......なるほどね。こいつは、夜イブの後を付けて俺達のチョメチョメを見てたって訳だな......覗き見なんて、まともな奴のやる事じゃ無いぞ。確かバロンとか言ってたな......お前は変態か?
おっと、いかんいかん......いつの間にやら人だかりが出来てやがる。ちょっとこれは不味い展開だ......村のそんな掟が正当かどうかは別として、俺達が掟に背いた事だけは逃れようの無い事実。ここは一旦、バロンに合わせて俺が1人で罪を被っておくのがベストだ。とは言え、イブがそんな事認める訳無いよな......
「あたしは騙され......」
ほら、正直に言い始めた! でも最後までは言わせ無いぞ。お前を守れなくなっちまうからな......
「バロン! お前の言う通りだ。この子がちょっと可愛いかったから遊んでただけだ。なんだ......バレちまったのか」
俺はイブの言葉を遮り、あっさりとバロンの言に追従した。イブを『謀反者』から除外したい......そこだけはバロンも俺も、完全に意見が一致していた。
多分だけどこいつ......イブに惚れてんな? でもまぁ、お前じゃ無理。ああ見えてイブは暴れ馬だ。そんな小さな器じゃ、暴れ馬は乗りこなせないぜ......
「ちょっと、何言ってんの?! あなたとあたしは......」
「イブ、もう黙れ! こいつは素直に白状した。これで終わりだ。よしお前ら、オリビアを引っ捕らえろ!」