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第11話 成り行きに従うって決めたんだから

もしこのまま『衣』を脱ぎ、素肌を更け出すような展開になってしまったなら......正直、全く想像が付かない。でも、もうあたしは子供じゃ無い。その時は、成り行きに任せれておけばいい......きっとそれも大事な『任務』? んな訳ないか......


カランコロン......


ドキドキドキ......


カランコロン......


ドキドキドキ......



心臓をバクバクさせながら、かれこれ10分は歩いただろうか.....やがて微かな硫黄の臭いと共に、視界を白い煙幕が遮り始める。



「そこのカーブを曲がり切ったら、すぐその上だ」


「はい......」



いつしかあたしは『借りてきた猫』に変貌を遂げている。そんなのは空軍隊長モニカにあるまじき行為だ! などと、もう1人のあたしが耳元で叫んだりもしていたが、既に軍服を脱いだあたしに取っては、そんなの雑音程度にしか聞こえなかった。


やがて松明が続く美しき小路のカーブを曲がり切ると、その先にはそれが有った。湯治場だ。そんな景色が視界に広がった途端、あたしの目は思わず点になる。



「なっ、なに?! こ、これ!」


「なに、これって......湯治場だが」


「湯治場は分かるけど......なに? この履き物の数は?!」



1、2、3、4、5、10、20、30......ざっと数えたたけでも、脱ぎ捨てられた履き物の数は30を下らない。薄暗い湯船の中で2人きりになったら......などと密かに煩悩をメルトダウンさせていた自分が、一瞬にして『道化師』と化した瞬間だった。



「履き物の数がどうかしたか? 『救世主』のモニカ殿が湯治に行くと言ったら、皆こぞってモニカ殿の背中を流すと、全然話を聞かないのだ。おや、どうした? ブルブル震えて? 何を恐がってる?」



そりゃあ怖いって! 30本、いや30人はちょっと集め過ぎでしょうに......



すると、彼らの反応は早かった。



『おっと、モニカ様が居らしたぞ! みんなお出迎えだ!』



1人が暖簾の隙間からちょこんと顔を出し、そんな危険な言葉を並べた途端、次の瞬間には、ドタバタドタバタッ!


なんと! 全裸の巨漢達が下半身をブラブラさせながら、次から次へとあたしの元へ駆け寄って来るではないか! ダッ、ダメだ......まともに見れん!


そんな『異性』なるあたしが顔を真っ赤にするよりも早く、「さっ、いい湯が待っておりますぞ!」「皆、お待ちかねです!」「自分に背中を流させて下さい!」などなど......手を引かれ、背中を押され、あっと言う間にあたしは暖簾を潜っていたのだった。


そこで見てしまった慟哭の景色......それは正に想像を絶するものだった。なんと! 思ってたより遥かに小さな湯船に約30もの肉体の塊がひしめき合ってるではないか。正に究極の芋洗い状態だ。



「これじゃあ、入る隙間無いでしょう! 俺はちょっと遠慮し......」



などとあたしが言い掛けた次の瞬間には、



「お前らモニカ様の御前だ! 端に寄れ、寄れって! さぁ、モニカ様、真ん中へどうぞ!」



などとその者は、史上最強なる堕言を吐き出すと、遂に、遂に、遂に......あたしの『衣』に手を掛けた!



「キャー!!!」


 

多分だけど......そこに居合わせた30名、合計60個の目は、全てあたしに向けられてたと思う。変な話かも知れないけど、もしここに居るあたしが、泣く子も黙る空軍隊長モニカだったなら、一瞬にしてその者を投げ飛ばしていただろう。よもや、『キャー!!!』などと悲鳴を上げる事なども無かっただろうに。


しかし、今ここに居るあたしは、一介の健気な少女モニカに過ぎなかった。そんな弱き乙女にあたしを変えてしまった要因は他でも無い。ジャックとの出逢いだった......


軍服を脱いだあたしに、善意あるこの巨漢達を投げ飛ばす力は無かった......あたしは目を瞑った。なぜなら、成り行きに身を任すと心に決めたのだから......



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