第6話 俺は『現実主義者』でもある
今、村を襲って来ている奴らは、この『ポパイ大陸』の治安維持を目的として設立された『自警団』の連中だ。『自警団』......それが名前だけである事は、この有り様を見て貰えば誰でも分かる事だろう。元々は悪を憎む志高き若者達が一同に集まり出来上がった集団だ。
最初のうちは良かった......大陸中にウジャウジャ居た盗賊を、尽く退治してくれたからな。みんな平和が訪れたと、それはそれは喜んでた訳だ。だから彼らにはみんな何でも与えた。今思い返せば、それが悲劇の始まりだった......
『寄付』から始まった『貢物』は、いつぞや『税』に名前を変えていき、『自警団』の求めるそんな『納税』要求は、止まる事を知らなくなっていった。
まぁ、それだけの事をやって来てくれた訳だから、百歩譲って、食糧と財産はいいとしよう。心を持たない『物』であれば、またすぐに作ればいいだけの話だからな。でも『人』は違う。家族ってものは、お互いが唯一無二なる存在であって、1減ったから1増やせばいいって話じゃ無い。
これまでうちの村は、『人』の要求に対して、のらりくらり何とか上手くかわして来てた。ところが『自警団』のボス、ブルートが見ちまったんだ。俺の大事な一人息子を......
イバン......それが俺の息子の名前だ。俺の口から言うのも何だが、今年12才になったばかりのイケメンだ。ちょっとなよってる所が、ごっつい奴からすると堪らんらしい。
そんな訳だから『自警団』がこの村にやって来ると、いつも俺はイバンを地下室に隠してた訳だ。ところがある日のこと、突然やって来たブルートに見られちまった。イバンが川で洗濯している所をな......迂闊だったよ。
その結果がこの有り様だ。『イバンはどこだ?!』って、そこらじゅうの『自警団』が声を上げてやがる。もちろんイバンをブルートに渡すつもりなんて無い。ただこれはもう、イバン1人だけの問題じゃ無かった。
俺は奴らの事をよく分かってる。1人でも認めようものなら、必ず2人目、3人目と『人攫い』は永遠に続いていく事だろう。
そんな事には絶対させん! 俺がこの村を守るんだ!
そんな決意を心に刻み、一気呵成に飛び出した俺は、まず準備運動がてらに、バサッ! たまたま目の前に現れた騎兵の1人を切り落とした。
「ぐえっ!」
馬から転げ落ちたその者の首は一瞬にして銅から離れ、ゴロゴロゴロ......気付けば屍と化している。なんだ......弱っちいな。これじゃあ準備運動にもならん。
正直......俺は幼少の頃から剣に長けていた。親父から英才教育を受けてたせいも有るが、それを振り回すのが好きだった事も大きく要因していると思う。とは言っても、親父の『平和主義』の影響もあってか、生まれてこの方、無益な殺生は1度足りとも行った事が無い。
俺がこの剣を使う時はもっぱら狩猟だ。空飛ぶ鳥をジャンプして切り落とし、激しく動き回るシカやらイノシシやらを、日常の如く仕留めて来た。そんな素早き動きを見せる『獲物』に比べれば、『人』の動きなどは正に愚鈍の極まり。準備運動にもならない訳だ。
バサッ!
「うっ......」
バサッ!
「うっ......」
1人、2人、3人、5人、10人......機械的に振り回した剣は、尽く『殺戮者』達の急所を捉え、見る見るうちにその数を減らしていった。最初50を数えていた『殺戮者』達の数も、気付けば30。多分俺の剣が20人程、馬から突き落としたって事なんだろう。
とは言っても、さすがに連中もバカじゃ無かった......それまで村中に散らばっていた者達が、いつの間にか俺の回りに群がって来てやがる。初級モードの格闘ゲームもこれで一旦は終了って事だ。やがてどこからか走り戻って来た5人の新敵が合流して来ると、
「『ベビーフェイス』がやって来る前に片付けちまおう」
などと、意味不明な事を口走りながら、10メートル先で横並びになって弓を構えてるじゃないか。正直、これはちと不味い。俺の剣は他人より長めだが、さすがに10メートル先の敵には届かない。剣をぶん投げれば1人には刺さるが、その後手ぶらでこの集団と戦わなければならなくなる。
因みに『ベビーフェイス』が何なのかはさっぱり分からないが、途端に奴らが焦り始めた事だけは間違い無さそうだ。
やがて、多勢に無勢......そんな圧倒的不利を思い知らされる時がやって来た。
「往生せいや!」
中でも一番偉そうにしてた大柄男がそんな叫び声を上げると、20にも達したその者達が、一斉に弓の弦を張った。さすがの俺もこうなっちまうと死を覚悟せざるを得ない。『奇跡』でも起こらない限り、俺の生存への道は全て閉ざされていたと言っても過言では無かろう。
因みに俺は『平和主義者』でもあり、自他共に認める『現実主義者』でもある。『奇跡』などと言う夢空事に希望を抱いた試しは一度も無い。ところが、そんな『現実主義』を改めなければならないような事態が、突然この後巻き起こったのだ。聞き慣れぬその音は、俺が死を覚悟した直後に、頭上から聞こえて来た。
バサッ、バサッ、バサッ......