第4話 目に映って来たものと言えば
タッ、タッ、タッ......
こっちに向かって走り寄って来るその者達の姿は、明らかに『殴り掛かる』では無く、『抱き付く』だった。なぜそう思ったかと言うと、手が『グー』では無く『パー』だったから。
そして、その者達の汚れた手があたしに触れようとした瞬間、パシッ! バコンッ! ボコッ! パコッ! ペキッ!......勝敗を決するのに3秒を要しはしなかった。『おままごと』レベルの勝負だったと言えよう。
「くっそう......覚えてろよ! いいか村長、また来るからな! イバンは必ず俺が貰う。首洗って待ってろ!」
バタバタバタ......一目散で逃げ去っていく『裏街道風』の5人だった。
ふぅ、取り敢えずはOKか......『ポパイ大陸』到着早々、突然訪れたドタバタ劇を解決し、漸く一息つくあたしだった。何となくだけど......今起こったこの事態を見ただけで、この大陸の全てが見えたような気がする......
人間と言う生物は他の生物と同じで、生きていく為にはまず食べなければならない。もし『食欲』と言う『欲』が存在しなければ、誰も食べる事をせず、生まれて直ぐに死んでしまう事だろう。
異性と交わりたいと言う『欲』も同じだ。生まれながらに『本能』として受付られてるものだから、生まれた後の環境に左右される事は無い。例え、その大陸に異性が居ないとしてもだ。今あたしの目の前に現れた『野獣』達の行動は、明らかに『仮想異性』を求めるが為の行動だったのだろう。
5人もの大男が無抵抗な老人を襲う事など、もちろん言語道断なる行動であり、決して許される話では無い。しかしその根元に有るものを考えると、決して彼らだけを責める訳にもいかないんじゃないかとつくづく思ってしまう。
『ゴーレム国』が作り出したこの2大陸制度に、つい疑問符を投げ掛けてしまう罰当たりなあたしがそこに居た。
「た、助けて貰って......感謝......するぞ」
すっかり物思いに更けていたあたしは、そんな老人の存在を忘れていた。声を掛けられて突然我に返る。見れば、あちこち殴られたのだろう。顔も身体も傷だらけだ。
「だっ、大丈夫か?!」
「わしはもうこんな老体でいつ死んでも構わん身......そんな事より村が......村が心配じゃ!」
なんと! 襲ってきた連中は、奴らだけじゃ無いって事なのか?!
「む、村はどこだ?!」
「今、わしが......案内申す。奴らは50人以上で突然『臥龍村』を襲って来たのじゃ。ああ......村民が! わしの家族が!」
「分かった、案内してくれ!」
その時あたしの短くなった髪の毛は、怒りで完全に逆立っていた。どうやらこの地で必要なものは、『同情』では無く『治安』だったようだ。まずはあたしがその必要性を示してくれよう......
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
森の中へと急ぎ足で進んで行く村長とあたしの2人。やがてそんな2人の目に映って来たものと言えば......