第2話 いきなりだった
上空から見下ろす海は実に荒れていたが、いざ大陸まで来てしまうと、思いの外、波打ち際は静かだった。
ザブ~ン、ザブ~ン......
「ガルーダ......そなたのお陰で、何とかここまで辿り着く事が出来た。礼を言うぞ」
見れば岬の少し奥めいた所に、ちょうどコンドル1羽が身を隠せるだけの小さな洞窟が見え隠れしている。
「ここからは、あたし一人での戦いだ。そなたは暫くの間、あそこの洞窟でゆっくりしていてくれ。魚がいっぱい泳いでるみたいだから、食事には事欠かないだろう......お主の力が必要になった時はこの笛で呼ぶから、その時はまた助けてくれ」
モニカは、ポケットから出した小さな笛をガルーダの前に差し出すと、ブルルン、ブルルンと2回身体を揺らして、それに応えてくれる。
「それじゃあ、行って来るぜ! 我が相棒よ!」
その時モニカは、既に『美しき戦士』から『逞しき戦士』に見事変貌を遂げていた。この大陸で任務を成し遂げる為には、自らが『女』である事を忘れなければならない。見てろよ......あたしはこの剣1本で、必ずやアダム様を見付け出してみせる!
そんな忠義の士は意を決し、地獄への第一歩を踏み出して行ったのだった。
ザブ~ン、ザブ~ン......
等間隔で鳴り響くそんな波の音は、ヒートアップしたあたしの脳を幾分かクールダウンしてくれる。すっかり雲が消え失せた広大な夜空には、無数の星が散りばめられ、そんな星明かりはサンゴが混ざった真っ白な砂浜をキラキラと輝かせていた。
『ゴーレム国』が君臨する『ゴーレム大陸』、女だけが住む『オリーブ大陸』、そして今あたしが足を踏み入れたばかりの『ポパイ大陸』......緯度、経度は違えども、同じ海を共有し、見上げる夜空も一緒だ。
そんな同じような大陸に住む同じ人間なんだから、この大陸に住む『男』達だって、あたし以上に大人しくて優しい人達ばかりなのかも知れない。
もしかしたら、あたしが女である事を意識し過ぎるが故に、ここに住む善良な人達を勝手に『野獣』に仕立て上げてるだけなんじゃないかって、素直に思ったりもしている。
あたしの任務は、アダム様を見付けて、『ゴーレム国』に連れて帰る事。その為にはまず多くの人達と打ち解け、有力な情報を入手しなけれなきゃならない。それなのに、あたしの方がバリヤーを張ってどうするんだ......
まず、この大陸の男達に出会ったら、敵意無しの姿勢を見せよう。その為にはとにかく笑顔だ。大丈夫......きっと優しくて、大人しい人達ばかりだって。多分だけどね......
よしっ! そんな方針を固め、苦しい作り笑顔の練習を始めた正にその時だった。
タッ、タッ、タッ......
タッ、タッ、タッ......
何やら森の中から、複数の足音が......
おっと、早速のお出ましだ! よし、第一印象が一番大事。笑顔! まずは笑顔で挨拶だ!
んんん?......何か1人や2人じゃ無さそうだな。しかもかなりの勢いで走り寄って来てる。まぁ、ちょうどいい。まとめて挨拶出来れば一石二鳥だ。きっと優しくて大人しい人達ばかりに決まってる!
そんな訳で、あたしが笑顔を作って待ち構えていると、遂にその者達が目の前に飛び出して来た。すかさずあたしは、
「どうもこんばんは! ちょっと道に迷ってしまいまして......」
「おうりゃあ! このくそジジイか! ぶった切ったる!」
「ひえ~!」
「なめとんのか?! コラーッ!」
「命だけはお助けを!!!」
「大阪南港の水は冷たいでー!」
ドカンッ! バコンッ! バサッ!......
どうやら......この大陸の男達は、決して優しくは無かったようだ。あ~あ、いきなりか......




