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第6章 モニカとジャック 第1話 問題はここから

バサッ、バサッ、バサッ......



雲の中を一気に突き進んで行く1羽のコンドルは、向かい風をもろともせずに、目的地たるその大陸へと向かって、着実にその距離を縮めていった。



「ガルーダに越えれぬ海は無し。『ゴーレム国』唯一無二なる不死鳥とは、正にそなたの事だ!」



ガルーダの背に乗った空軍隊長モニカは、未だ疲れを見せぬそんな『特攻機』に、最大限の賛辞を送った。


もうそろそろ見えて来ても良さそうな頃だが......いつの間にか塞がった左腕の傷を庇いながら、徐に双眼鏡を伸ばしてみると、暗黒に支配された空間の先に、僅かながらの灯りが灯籠の如く浮かび上がって見える。よしっ......『ポパイ大陸』だ!


『ポパイ大陸』と言えば、女を知らぬ『男種』だけの地。そして今、そんな地へ舞い降りようとしている忠義の士は、言わずと知れた美戦士モニカ、性別の異なるその者に他ならなかった。


あたしはもちろん理解していた......その地が自分に取って、いかに危険であるかと言う事を......でもあたしだってバカじゃ無い。彼らの封印された本能さえ呼び起こさなければ、きっと何とかなる......だって彼らもあたしと同じ、血の通った人間なのだから......


でも、一応やれるだけの事はやっておこう......そんな保険的な発想から、あたしは意を決して剣を抜いた。別に剣を抜いたからと言って、大それた事をやる訳じゃ無い。男大陸に不似合いなものを、ただ切り捨てたかっただけだ。そして、バサッ、バサッ、バサッ......見事なまでに切り落としていく。すると頭が途端に涼しくなった。


気付けば......自由の身となったあたしの長髪は、束となって宙を舞っている。鏡なんて持って来て無い訳だから、もちろん切り方は適当。まぁ、少しばかり不揃いの方がワイルドに見えるでしょう......取り敢えずこっちは良し! さぁ次だ!



「ガルーダ、ちょっと目を瞑っててくれ」



あたしは飛行士なるガルーダに、そんな無茶な注文を繰り出すと、瞬く間にローブを脱ぎ、そして軍服を脱ぎ捨てた。別に上空千メートルの地点で、ヌード撮影を始めようって訳じゃ無い。


予てより用意しておいた『サラシ』をきつく胸に巻き付けると、見事『まな板』の出来上がりだ。まぁ、こんなんで彼らを騙せるかはどうかは分からないけど、何もしないよりはマシだろう。


やがて、そんな仕込みに精を出しているうちにも、大陸の夜灯りが大きく見え始めて来る。目を瞑っていても、しっかり飛行を続けるガルーダは凄い! などと思いきや......しっかり薄目を開けていた。やっぱガルーダもオスって事か......今更ながらに、男大陸へ行く事が恐くなってしまう孤独な『男装女子』がそこに居た。



「ガルーダ、もう目を開けても構わん。墜落だけはご免だからな」



白々しく目を大きく見開いたガルーダは、あたしの注文通り、一気に着陸態勢へと移行していった。


まだ夜の8時か......ちょっと予定より早く着いちゃたな。さすがにこの時間じゃまだみんな起きてんだろう......少しでも人目に付かない場所へ着陸しなきゃ不味そうだ。



「おい、ガルーダ。見付からないように岬の裏へ着陸してくれ」



あたしが長い砂浜の一番端、そこに隠れた岬に指を向けると、ガルーダはその場所へと向かって、更なる急降下を開始していく。そして......バサッ、バサッ、バサッ! 最後に大きくブレーキを掛けると、ゴゴゴゴッ......見事着陸完了だ。



よしっ、万事OK! でも......問題はここからだな。



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