第11話 やっぱ来たか
その時、あたしは怒りに震えていた。正直、もう我慢の限界! 神聖なるオリバーさんへの『贈り物』が、奴の汚れた手で触られる事すら、あたしに取っては耐え難い屈辱だった。
無意識のうちに、あたしは剣に手を掛けている。それは正に、刺し違えてやる!......そんな抑えようの無い、激しき怒りの現れだったに違いない。
「バロン! 覚悟しろ!」
振り向き様に、あたしはそんな罵声を浴びせ掛けてやった。
ところが......
次の瞬間......
気付けばあたしは......
逞しきその者の......
腕の中に居た。
そしてその者は......
青いローブを纏っていた。
「あなたは......」
「イブ......待たせたな」
「オリバー......さん」
「お前からの『贈り物』......確かに受け取ったぜ」
「あなたに......会いたかった」
「俺はもう......お前を離さない」
この香り、この感触、そしてこの温もり......忘れる訳も無かった。オリバーさんが来てくれた......うっ、うっ、うっ......私はもう涙が止まらない。この瞬間がやって来る事を信じてたからこそ、昨日からあたしは辛い事に耐え続けて来れたんだと思う。
気付けばあたしの身体は、彼の逞しき身体に包み込まれている。全身の力が抜け、完全に溶けていた。ここが生涯求めていたあたしの居場所だ。もう決めた......この人にどんな秘密が有ろうとも、例え彼が悪魔の化身だったとしても、あたしはこの人に着いて行く。今後、その覚悟が色褪せる事は無いだろう......
♪♪♪......静かなバラードに包まれる中、極限まで落とされた僅かな灯りの下で、私とオリバーさんの唇は自然と重なり合っていた。この時間が永遠に続いてくれたなら、どんなに幸せなんだろう......
しかし、イブのそんな小さな望みが叶う事は無かった。
『夢の世界』に飛び立ったばかりの2人を、突然、『現実の世界』へ引き摺り降ろそうとする者が現れる。
ヒタヒタヒタ......
2人の背後から近付いて来るそんな複数の足音は、残念ながら悪意に満ちていた。
ヒタヒタヒタ......
ヒタヒタヒタ......
ヒタヒタヒタ......
その数、合わせて10。更に、バサッ! バサッ! バサッ!......風を切るそんな物音は、束から引き抜かれた剣の音に他ならない。
激しい殺気を背負って忍び寄る足音は、幸福の絶頂に浸る年若き2人を、一気に悲劇のヒロインへと誘っていく事となる。
今はただ祈ろう......アダムとイブと、この星の未来に、幸有らん事を。