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第10話 『みんなでダンス』!

こうしちゃ居られない! と思ったあたしは、フリマ会場へと一直線。確か......『みんなでダンス』会場のすぐ脇だったはず。



タッ、タッ、タッ......私は走った。ただ夢中で走った。もう間も無く時刻は20時になる。まだフリマがやってるとは思えなかったけど、2本の足は勝手に前へと進んで行った。オリバーさん、オリバーさん!......


もしかしたら、もう会えなくなるんじゃないかって......そんな気がしてならなかった。そう思った途端、今更のように私はあなたの存在の大きさに気付いてしまった。だから......どうしても今日だけは会いたかった。



やがて......フリマ会場に辿り着いてみると、思った通りそこは、全てが綺麗に片付けられていた。しかもダンス会場の一部と化している。若者は然る事ながら、ご老人、子供までもが一同に集まり、ダンスが始まるその瞬間を今や遅しと待ち構えている状態だ。


よくよく見てみれば、一応、カップル形式での参加になってるらしい。契りを交わした者同士も居れば、見るからに『ナンパ』で成立した即席カップルも居る。そして......私はたった1人だけ。そんな一大イベントに、参加する事すら許されないらしい。



定刻の20時になると、どこからともなくドンドコドコドコ、ドンドコドコドコ......太鼓のリズムが響き渡ってくる。ここからは見えないけど、きっと人混みの向こう側で生演奏しているのだろう。


集まった全ての『踊り子』達が、太鼓のリズムに合わせて楽しそうに『ダンス』を繰り出している。きっと決められた振り付けが有るんだろう。皆カップル同士で向かい合ってバンザイしたり、手を繋いだり、彼女を抱き上げたり......幸福の絶頂を最大限にアピールしたような、それはそれは、魅力的な『みんなでダンス』だった。


残念ながらそんなダンスの渦中をただ1人『迷子』を探すあたしの都合など、誰一人考えてくれる者は居なかった。踊り狂う人の間を左へ抜けようとすれば、左から肘鉄が飛んで来る。痛い......右へ抜けようとすれば、右から巨漢マダムの尻が飛んで来て、華奢なあたしの身体は、明後日の方角へと吹き飛ばされてしまう。「ちょっと邪魔! チョロチョロしてんじゃ無いわよ!」「す、すみません」......実際、そんなやり取りの繰り返しだった。


とてもじゃ無いけど無理だ......この人混みじゃ見付けられない。現実って、やっぱ厳しいな......『あきらめ』と言うネガティブな言葉が頭を過った途端、何だか急に悲しくなってきちゃった。


そんな凹んだあたしが、ヘナヘナと地べたに座り込んだ途端、1曲目がちょうど終わり、今度は静かなバラードが始まる。笛の音がおり混ざった実にムード有る選曲だ。そして等間隔に置かれた松明はその大部分が消され、甘い空気が一気に会場を包み込んでいく。


くそっ! チークタイムか! 


あたしが正にヤケを起こしそうになったその時のこと。ドスンッ! あっ!......


なんと! 脇に抱えていた大事な大事な『贈り物』が、どこぞやの人に蹴られ、吹っ飛んでしまったではないか! 


たっ、大変! オリバーさんに渡すプレゼントが! 


幸いにもまだそれは、視界から消えてはいなかった。あたしは瞬間的に手を伸ばすも、そんな『贈り物』はまるでサッカーボールのように、ゴロゴロゴロ......そしてまたゴロゴロゴロ......追い掛けても、追い掛けても、あたしから遠ざかって行ってしまう。


そんな逃げ行く『贈り物』はまるで、私の前から消え去っていくオリバーさんそのもののように思えてならなかった。だからあたしは、人に踏まれても、蹴られても、罵声を浴びせ掛けられても......オリバーさん待って! オリバーさん、あたしの前から消えないで!......ただ無心に地を這ってそれを追い続けた。


やがで甘い音楽が奏でられる中、あたしは遂にそこへと辿り着く。そして、えいっ! 皆に踏まれた続け、泥だらけとなった『贈り物』が射程に入ったその時だった。バサッ! なんと、あたしがそれを手に取るよりも一瞬早く、何者かに掴み上げられてしまったではないか! 


あっ?! まさか、またバロン?!......くそっ! どこまでもあたしを苦しめやがって!



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