第6話 招き入れてしまった
「ええ、そうなんだ......あれ? ん?!」
すると突然、全身に緊張を走らせ、何かを一心に見詰めている。一体、何を見てるのかと、彼女の視線の先を私が見ようとしたその時だった!
マルタさんは突如掛け布団を跳ね上げ、ベッドから飛び降りると、次の瞬間にはなんと! バコンッ! 拳を真下に振り落としたではないか。
この瞬き程の時間に、一体、何が起こったのか?......私にはまるで理解出来なかった。
やがて......彼女が拳を引き上げると、床の上にはグシャグシャとなった1匹のサソリが......
「こいつは猛毒を持ったサソリだよ。おばちゃん、危なかったね」
マルタさんはそんな解説を述べながら、気付けば向日葵のような笑顔を浮かべている。
私は今も目に焼き付いていた......この人がベッドから跳ね起きた時の、燃え上がるような、突き刺すような、魔物のような、激しき殺気を放っていたその姿が......
「あ、ありがとう......」
「ところで、おばちゃん」
「な、なに?」
「この村で、おでこにアザが有る12才の子って居るかな?」
「えっ?!......何それ?......べ、別に......し、知らないけど......」
「あら、そう......」
「......」
それってどう言うことなのよ!......あなたは漁船が難破して、たまたまこの村に流れ着いたんじゃ無いの? あたし達が救い出さなければ、死んでたんじゃ無いの? それとも、なに?......おでこにアザが有る12才の子供を探す為に、わざわざ漂流した振りをして、この村に潜入したって事なの?......
もしかしたら......私は飛んでも無い災いをこの家に持ち込んで来てしまったのかも知れない。もし昨晩、この人を助けなければどんなに良かった事か......今更後悔したところで、どうにかなる訳でも無かった。
正直、この人の正体は全くベールに包まれたままだけど、とにかくオリビアには絶対近付けない。それだけは何としてもやり通さなければならない事だと思った。
「おばちゃん、暫くお世話になります! 宜しくね」
「え、あ、は、はい......」
心そこに有らず......私はそんな返事しか出来なかった。足元を見下ろしてみると、そこには未だサソリが無惨な姿を更け出し続けている。
マルタさん......ちょっとでも不穏な動きを見せたら、いつでも私があなたをこのサソリのようにしてやる。その時は覚悟しておいてね......
両の手の拳を強く握り締め、秘めたる殺気を放ち始めるリラだった。