第5話 アザ出来た
ゴツンッ!
「フギャー!」
「フギャー!」
落とすなっ! この運び人が! 隣の篭の『軟弱タイプ赤子』と頭がぶつかったじゃないか!
いてててて......俺がこんなに痛いんだから、そっちもさぞかし痛いんじゃないか? と思った次第で、何気に隣の『軟弱タイプ赤子』を見てみた訳だ。おっと......何か俺に言いたそうな顔してるぞ。
あんた、痛いじゃないの!
ちゃんと避けなさいよ!
いやいやいや......俺じゃ無いだろ。
文句が有るなら運び屋に言えよ!
あらら......お宅、右のおでこにアザが出来てるぞ。
もう、いった~い!
あらら......
あんただって左のおでこにアザが出来てるじゃない!
そうか......いってぇ訳だ。
アザの跡が残ったら、あんたのせいだからね!
責任取んなさいよ!
だから、俺のせいじゃ無いって言ったるだろ!
うるさい! このボケ、ナス、チキン野郎!
チキン野郎だと! このおてんば狐ザル!
............
............
............
生まれたばかりなのに、何で隣の『おてんば狐ザル』と、こんな会話が成立したのかは未だもって不明。テレパシーなる通信手段が、たまたま作動したのかどうかは分からないが、生まれて初めて誰かと意思の疎通が出来た事だけは明らかだ。ちょっと嬉しかった。
それと......何なんだ? ボケ、ナス、チキン野郎ってなじられた時、やたらと気持ち良かった。まさか?! 俺は『M』......なのか?!
よくよく見てみれば、可愛い顔してるじゃんか。まぁ、赤子の時点で可愛く無かったら、将来暗いと思うけどね......
でもなんか、気になるな......この『おてんば狐ザル』の事がさ。胸がキュンキュンしてるぞ。因みに、『チキン野郎』ってどう言う意味? 美味しい食べ物なのか?
などと......そんな2人の赤子がテレパシー談義に花を咲かせているうちにも......
「いてててて......」
どうやら運び人も、倒れた勢いで壁に頭を打ち付けたらしい。そもそもこれが悲劇の始まりだった......
残念ながらこの運び人の脳細胞は、頭を強く打つと『記憶』と言う名の『送り先発注書』が一部リセットされる構造になっていたようだ。
最初の2人の赤子については、辛うじて行き先を覚えていたものの、アダム君の番になると、
「あれ? こいつはどこ行きだったっけ? 頭を打った勢いで忘れちまったぞ。どうすっかな......今更班長に聞いたりしたら、またドヤされるし......果て、困ったもんだ」
途端に怪しいオーラが運び人の周囲に立ち込め始める。赤子でありながらも、赤子であるが故に、そんな澱んだ空気を敏感に感じ取ってしまうアダム君だった。
なんだこのおっさんは?......
ブツブツ呟きながら、俺の顔じっと見てるぞ。なんか俺の顔についてるのか? 全く、気色悪いおっさんだ......
などと、気色悪がっているうちにも、
ポンッ!
運び人は一休さんの如く手を叩き、あるまじき暴挙へと打って出る。嫌な予感と言うものは得てして的中するものだ。
「班長に聞き直すまでの事でも無い。こいつの顔を見れば分かる」