第3話 オリビア・バロック君よ!
「夏祭りに来るのか? 別に俺は構わないけど、来たってイブが俺に気付く事は無いと思うぜ。まぁ、それはいいか......それじゃ、俺は村に帰るからな。また明日!」
パッカ、パッカ、パッカ......
いつも去る時は鮮やかだった。『また明日』......毎度の事ながら、その言葉にあたしは癒されてしまう。だってまた会おうって事でしょう! やっぱそう言われると嬉しいな......
それはそうと......オリバーさんはやっぱ『サマンサ村』の人だったんだ。否定しなかったもんね。でもあたしがオリバーさんに気付かないって、どう言う意味なんだろう? 何だか言い回しがやたらと意味深よね......何かに化けてるってこと? 馬とか、木とか、ジャガイモとか? そんな訳無いか......
でもあたしは夏祭りに行かない。だって詮索しないって決めたんだから......あなたの事を深く知り過ぎて、あなたを失う事の方がよっぽど恐い......
パッカ、パッカ、パッカ......オリバーの身体の余韻に浸りながら、少し遅めの帰還を始めるイブだった。
ところが......
そんな2人の仲睦まじき姿を目の当たりにし、心穏やかならぬ者が約1名存在した。
パッカ、パッカ、パッカ......
その者は、オリバーの後を追いながら、馬上でギシギシと歯ぎしりを繰り返している。
くっそう! 俺の大事なイブと、よくもイチャイチャしてくれたな! 俺なんか手すら触った事無いんだぞ。ギシギシギシ......よっぽど飛び出してやろうかと思ったけど、それじゃ奴の正体を暴けんからな......我ながら、よく我慢したもんだ。今日は必ず奴の家を突き止めてやる!
おう、そうだそうだ......いい事思い付いたぞ。明後日は『サマンサ村』の夏祭りだ。大勢の前で奴を晒し者にしてやろう。『サマンサ村』のチンピラが『ダーリン村』のマドンナに掟を破って『強制イチャイチャ』したってな! 俺ってもしかして天才? 完璧な筋書きじゃねぇか......フッ、フッ、フッ......
おっと、もうそろそろ『サマンサ村』に着くぞ。ここで奴を見失ったら、元も子も無い。ようし......追尾開始だ!
ってな訳で、俺は奴の10メートル程後ろから、奴の後をつけ始めた訳だ。抜き足、差し足、忍び足......きっと忍者顔負けのステップだったと思うぜ。
見たところ、奴も周りをキョロキョロしながらコソコソ歩きしてやがる。きっと後ろめたいところが有るんだろうよ。なんせ村の掟を見事なまでに破ってる訳なんだからな。
おっと......外門扉を開けたぞ。ここが奴の隠れ家って事だな。遂に突き止めたぞ。どれどれ......表札には何て書いてあるんだ? う~ん、バロック? 間違い無い、バロックだ。
『ボッカ・バロック』に『リラ・バロック』に、それで一番下に書いてあるのが『オリビア・バロック』......多分、上の2人はパピーとマミーだろうから、一番下......つまり罰当たり野郎の名前は......オリビア! 『オリビア・バロック』って事だ!
ようし......遂に尻尾を掴んだそ! 俺のイブにちょっかい出すと、どう言う事になるか思い知らせてやる! 明後日の夏祭りが楽しみだぜ『オリビア・バロック』君よ!
ハッハッハッ、ハッハッハッ......鬼の首を取ったような喜びを見せる勘違い狩人、バロンだった。
『恋は障害が有る程盛り上がる』とはよく言うが、このバロンと言う者......ちょっと厄介だ。『ダーリン村』の村長の嫡子で、これまで、ぬるま湯に浸かったような生活しかした事が無い。欲しい物は何でも買い与えられて来た結果、欲しいものが手に入らない事が許せない。そんなバロンに見初められたイブは不運としか言いようが無かった。もっともそれは、イブが誰よりも美しかったせいでも有る。きっとこれは美人の定め......そう思って諦めるしか無いのであろう。まぁ、余談では有るが......