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第7話 負けた

「まあまあ、それ位にしておいて......」



「シーザー様が見てらっしゃいますぞ」



さすがに見かねたゾールとブラッドの男隊長の2人が、未だバーリートゥードを続ける私達の間に割って入って来ました。



「誰かっ! この不届き者を牢にぶち込みなさい! ちょうどいい、モニカ! あんたが連れて行きなさい!」



なんとベーラはついさっきまで王妃だった私に牢獄入りを命じたのです。どこまでこの女は残忍なのでしょうか......



一方、突如そんな大命を振られたモニカは、どうしていいものか容易に判断がつかない様子でした。いくら現国王と血が繋がっていないとは言え、長年忠誠を尽くして来た前国王の王妃だった人間にそんな行動を取る事も出来なかったのでしょう。


いきなり牢にぶち込めなどと命令されても、そんな手の平を返したような暴挙を行う事は、彼女の武士道にも反する事だったと思います。やがてモニカは自分自身で決断する事が出来ず、苦し紛れに新国王アダムの顔を見たのです。すると......



「お母さんがぶち込めって言ってるから、ぶち込んで」



「は、はい。畏まりました!」



即座に跪き、結局は命に従う忠誠なる空軍隊長、モニカ。国王からの勅命ならばと、遂に腹を括ってしまったのです。もう、何たる事なのでしょう......



「さぁ、ソニア様......」



「お前までが......あなただけは信じてたのに......」



その時モニカは、ベーラ、そして既に忠誠を約束した2人の軍隊長なる者達の突き刺さる視線を、背中に感じていたようです。やたらと周囲の目を気にしていた事を覚えています。



「ソニア! お前を国王の命により投獄する。さぁ、来るんだ!」



モニカは一気に人が変わってしまいました。乱暴なる振る舞いで私を連行して行ったのです。その扱いは罪人と接する時のそれと何ら変わりは有りませんでした。どうやら、唯一この世襲に眉を潜めていたこの者も、権力に屈してしまったようなのです。


これから哀れな運命を辿る事となってしまった私は、背後からモニカに背中をつつかれながら、牢獄へと続くレッドカーペットを重い足取りで進んで行きました。


ああ、何てこと......アダムがアダムじゃ無かったなんて! だったら、あたしがこのお腹を痛めて産んだ真のアダムはどこへ行ったって言うのよ......


そう言えばさっき、ベーラは生まれて直ぐに赤子をすり替えたと言ってた筈。と言う事は......なに? あたしの大事なアダムは、生まれて直ぐ大陸に送られたって事なの?!


このままじゃ、せっかくシーザー様が作り上げたこの『ゴーレム国』が大変な事になってしまう。あのベーラって女は、血も涙も無い人間。シーザー様が死んだのも、あの女が飲ませた薬のせいに違いない。


偽アダムを国王に就かせ、既に権力を掌握してしまった悪魔を引きずり降ろす方法など1つしかない。それは真のアダムを大陸から連れ戻し、正当なる国王の座に就かせる......やっぱ、それしか無い! もしそれが出来なければ『ゴーレム国』も地に堕ちていく事でしょう......



「モニカよ......あなたは亡き国王が最も信頼を寄せていた正に忠義の士。そなたはこのままでいいとお思いか? ベーラが自己の利しか考えぬ実に卑しき女である事は、そなたもお分かりであろう。あの女は必ずこの国を滅ぼす。それがそなたの望みなのか?! 答えよモニカ!」



私は僅かな望みを賭けて、モニカの忠誠心をくすぐってみた。しかしその答えは、



「国王の命令だ。あなたもこの国の民であるならば、潔く命に従うのが筋であろう」



馬の耳に念仏だった。正直、モニカまでが......私はショックを隠し得ませんでした。僅かな希望すらも閉ざされてしまった私は、まるで夢遊病者のように、ただトボトボと牢獄へ向かって歩く事くらいしか出来なかったのです。



ザワザワザワ......


ザワザワザワ......



ソニア様は、アダム様を自分の子だとずっと騙してたみたいよ......


死んだシーザー国王が可哀想過ぎるわ!......


なんて酷い女なのよ!......



もはや、そんな噂が広がっていく始末。まさかベーラ兄妹も、ここまで鮮やかに事が上手く進んで行くとは、夢にも思っていなかった筈......それは彼女らに取って、正にラッキーな誤算だったのでは無いでしょうか。



やがて......



かつての従者達すらも、縄で自由を奪われた私に気付くと、皆揃って白い目を向けました。通例の如く、跪いて頭を下げる者などは、もちろん誰1人として居やしません。



私は思わず天を仰ぐ。


ベーラに負けた......


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