第6話 アダム国王誕生!
「今ここに新国王アダムが即位した。皆の者、何をしておる? 国王の御前だ。ひざまづき、生涯の忠誠を誓うのだ!」
壇上から、そんな号令を下したのはなんと! 私では無く、ベーラでした。一介の使用人から、ごぼう抜きで『国王の母』の地位まで上り詰めてしまったその者に他なりませんでした。
「なっ、なんであなたが?!」
「うるさい! 『下僕』は引っ込んでろ!」
「『下僕』......わたしが下僕......」
生まれてこの方、今日ほどまでに挫折を感じた事は有りません。12年間、自身の腹を痛めて産んだ子と信じて止まず、愛情を注ぎ続けて来た子が、実は国王と使用人ベーラの間に生まれた子だった......そんな事急に言われても、到底素直に受け入れられるようなものでは有りませんでした。
しかし残念ながら、国王が忌の際に述べた『すまん、ソニア』......その一言が、全て事実である事の証と言えたのです。
「陸軍隊長ゾール、国王アダム様に生涯忠誠を誓います!」
「海軍隊長ブラッド、国王アダム様を生涯お守りさせて頂きます!」
「空軍隊長モニカ......忠誠を......誓います。多分ですけど......」
ここに『ゴーレム国』国王アダムが、満場一致を持って即位が成し遂げられた訳であります。唯一の女性隊長たるモニカだけは、何やら言いたそうな素振りを見せていましたが、権力に背ける訳も有りません。結局は従順に従わざるを得なかったのでしょう。
ツカツカツカ......
やがて、『国王の母』ベーラは、地で泣き崩れる私の前にやって来ました。
「シーザーはね、酔った勢いで無理矢理あたしを押し倒したの。全く酷い人よね......その後、あたしの妊娠が発覚すると、あの人はその事をあたしに隠せと言った。
隠せと言われたって、どんどんお腹は大きくなっていくし、そんなの無理に決まってるじゃない。だからあたしは、国王の子である事も正直に皆に話すって言ったわ。
だって当たり前でしょう。あたしは使用人でBランクの人間なんだから......国王の子だって正直に言わなかったら、生まれて来る子はあたしと引き離されて大陸送りになっちゃうのよ。そんなの耐えられる訳無いじゃない!
散々考えた挙げ句シーザーが出した答えが、その時、同時期に生まれて来るあんたの子とすり替えるって事だったの。あたしの子をあたしの側に置く代わりに、シーザーが存命のうちは自分の子である事を絶対に明かさない......それがシーザーの出した条件だったわ......
納得出来ない部分も多かったけど、我が子が大陸送りになる事を考えたらそれも仕方がないかなって......それで結局、あたしは12年間、約束を守り通したわけ。自分の腹を痛めた子が、いつも側に居ながら、ママであるあたしが、あなたはあたしのママだよって言えなかったの!
あなたにあたしのこの辛さが分かる? 恨む相手はあたしじゃ無い。この虫けら絶倫男よ!」
「なにさ......12年間あたしを騙し続けておいて、被疑者ぶってんじゃ無いわよ! 酔った勢いですって? どうせあんたが色目使って、うちの主人を誑かしたんでしょう?! 正直に言ったらどう? 実は自分がシーザーを押し倒したってさ!」
「なんだと、くそっ!」
「痛い! もうこうなったらシーザーの弔い合戦よ!」
髪の毛を引っ張り合い、互いの頬を叩き合い......それはまるでドロドロ昼ドラと見紛う程の修羅場が巻き起こったのです。
既に自身の身体から幽体離脱を成し遂げた国王シーザーの魂は、この様子を見て、一体何を思っていたのでしょうか? 機会が有れば、是非感想を聞いてみたいものです。




