第3話 陰謀だった
「おいベーラ、いよいよだな。抜かるなよ」
「大丈夫......あの女はあたしを信じ切ってるわ。全くお目出たい女よね。それはそうと兄さん、あの薬......ほんと大丈夫なんでしょうね?」
「間違いない。毎日飲んでりゃ、せいぜい持って1週間ってとこだろ。あっと言う間に、国王はあの世行きだ」
城の門を出てすぐの道影で、そんな不穏なる会話を繰り広げる使用人ベーラと名医? の2人だった。会話の内容からすると、どうやら名医とはベーラの兄だったらしい。
もちろんこの男に医学的知識何てありゃしない。適当に医者っぽい事をやってたら、偶然国王の体調が良くなったって言うのが経緯だ。どこまでもついてるとしか言いようが無い。もっともこの2人からしてみれば、あそこで国王が死んだとしても、何一つ困る事は無かった訳なのではあるが......
「あれは間違いなく狭心症よ。あたしはこの時が来るのをどんなに待ち望んでた事か......遂に来た! って感じだわ」
「ここからが本当の勝負だぞ。怪しまれたら全てがおじゃんだからな。とにかくあの薬を1週間、毎日飲ませ続けるんだ。それが出来りゃ、国王は間違い無く死ぬ。国王の母ベーラの誕生、間違い無しって事だわな」
「大丈夫、抜かりは無いって。ソニアのやつ、アダムがあたしの子だと知ったら、きっとぶったまげるわよ。今から楽しみで仕方ないわ。フッ、フッ、フッ......」
「おういかん、もうこんな時間だ。お前、そろそろ戻らんと怪しまれるぞ。それと最後に確認だけど......アダムは大丈夫なんだろうな? お前に対してすっかり冷たいって噂が流れてるんだが......いくらお前が真の母親だとしても、国王になるあのガキがそれを認めなかったら、元も子も無いからな」
「あたしを誰だと思ってるの? 12年間、隠し続けてあの家族に仕えて来たベーラよ。そんなヘマやる訳無いでしょ! じゃあね、あたしは城に帰るわよ」
「分かった......抜かるなよ」
「まぁ楽しみにしてて」
「OK、またな......」
スタスタスタ......
スタスタスタ......
嘘の『名医』を城から送り出した悪魔ベーラは、大急ぎで城の中へと戻って行く。どうやら、国王シーザーが死ぬ前に、どうしてもやっておかなきゃならない事が有るようだ。
王族のリビングに戻ってみると、アダムが子供部屋の扉の隙間から、こっそりベーラを見ている。それで目が合うと、慌てて扉を閉めた。ギー、バタン......
ふんっ!
そんな閉めたばかりの扉を、ベーラは軽く鼻を鳴らし勢いよく開ける。
「アダム! お前はこれから国王になるの! 扉の隙間から覗き見なんかしてんじゃねぇ! あんたもう12才でしょう? いつまでもガキ面してんじゃねぇよ!」
「ご、ごめんなさい......」
それは正に、驚愕の1シーンだったと言えよう。これが時期国王と使用人との会話である事を誰が信じられようか......
「まぁ......分かればいいのさ。そんな隅で隠れてないで、ちょっとこっちへ来なさい」
トボトボトボ......
そんな『使用人』の『命令』に対し、素直に従う『次期国王』のアダム王子だった。
「アダム、あなたはほんとにいい子。ちゃんとあたしの言う事を聞いてくれるからね」
ベーラがアダムに言い聞かせている事......それは、シーザー国王とソニア王妃の前では、自分に辛く当たること。たったそれだけの事だった。
「う、うん......」
「アダム、1つ聞くわよ。あなたの父親は誰かしら?」
「シーザー国王だよ」
「宜しい......ではもう1つ聞くわね。あなたの母親は誰?」
「ソ、ソニア王......」
「誰だって?!」
「ベ、ベーラ......さん、です」
「あら、あなたはほんとに賢いわ。きっとそこだけは、あたしに似たのね。血は争えないって事だわ。それと......ソニアの前であたしを呼ぶ時は『さん』付けなくてもいいから。だってあたしがあなたを手懐けてる事バレちゃうじゃない。ホッ、ホッ、ホッ......」
フッ、フッ、フッ......不敵に響き渡る悪魔の笑い声は、決してソニア王妃に届く事は無かった。ベーラ妹兄の12年越しなる陰謀は、正に今、現実となる時を迎えようとしている。そしてその瞬間は刻一刻と迫りつつあったのである。