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第4章 ゴーレム国 第1話 ゴーレム国のはなしだった

『ゴーレム国』の王シーザーと私の間に生まれた玉のような男の子にアダムと言う名を付けてから、早いもので12年もの月日が経ちました......その間、戦争が起きるとか、疫病が発生するとか、大洪水が発生するとか......幸いにも、そんな忌まわしき大事件が勃発する事も無く、今も至って平穏な時が流れ続けていました。そんなある日の午後......



あら、怪しい雲が流れて来たわ......



いつもと変わらぬ窓外の景色に見とれていた私は、海の向こうから押し寄せて来る積乱雲に、言い知れぬ不安を掻き立てられたのです。何なんだろう、この胸騒ぎは......


この『ゴーレム国』がそうであるように、我が王家もすこぶる平穏。主人たる国王シーザーに限っては、最近あまり体調が優れない様子ではありますけど、50を過ぎれば人間誰しも持病の1つや2つは持っているもの。ですから深く心配はしておりません。


嫡子たるアダムは、今年で漸く12才を迎えました。無事大人の仲間入りを果たしたのです。少し生意気な事を言うようですが、そんな我が王家は、正に順風満帆と言えるのでは無いでしょうか。


その反面、あまりに今が平和過ぎて、逆にそれがいつまで続くのかと、ついつい不安になってしまう気弱な私、王妃ソニアがそこに居たのです。



一方、『大人の仲間入り』を果たしたばかりのアダムはと言うと......



「母さん、またベーラが僕の部屋の掃除をちゃんとやって無かったんだよ! 机の上に髪の毛が1本落ちてたんだ。こんな役立たずは早くクビにしてよ!」



はぁ......いつもと変わらぬそんな『やんちゃ振り』に、私は毎度の如く深いため息をついてしまう。



「アダム様......も、申し訳ございません。私には老いた母がおります。ど、どうか、解雇だけはお許しを......ああ、ソニア様」



ベーラはアダムが生まれるより遥か前から、王族の身の回りを世話してくれてる忠実なる使用人。髪の毛1本残っていた位で、解雇の『か』の字すら出て来るような話ではありません。


元々アダムは、このベーラにとても懐いていた筈......それが何か最近になって急に当たりが辛くなって来たような気がするんです。2人の間に何かあったのだろうか......臆病な私はついそんな事を勘ぐってしまいます。


見ればベーラは目に涙を溜め、私とアダムに拝むようなポーズを見せていました。理由はどうあれ、忠実なるその者に対し、権力を笠に着るような態度は、悔い改めさせなければなりません。なぜならアダムは、将来『国王』と言う立場の人間になる訳なのですから......



「アダム、お前はこれからこの国を統治していかなければならない身......『優しさ』の心を持たぬ君主に、成功した試しは有りません。アダム、今あなたはベーラに対し、優しさを示す場面です。目の前で悲しむベーラに対し、あなたは一体どんな言葉を掛けて上げるのですか?」



口でああしろ、こうしろと命令するのは簡単なこと。でも私はアダムに考えさせたかったのです。きっと、成長した我が子の姿を見せて欲しかったんだと思います。



一方、当のアダムはと言うと......チラリとベーラの顔を見詰めて何か考えている様子。きっと彼は彼なりに、幼い脳をフル回転させていたんでしょう。



すると、



「ふんっ、役立たず!」



そんな捨て台詞を吐き出すと、ツカツカ......自分の部屋へと駆け戻ってしまいました。残念ながら、この嫡子が国王になるまでの道程は、まだまだ沢山険しいものが待ち受けているようです。



「アダム! 戻りなさい!」



ギー、バタン。



すると、



「ソニア様......申し訳ございません。私のせいで......」



まるでアダムの愚行が自分の責任であるかのように、ベーラが私の前でひれ伏しているではないですか。



「ベーラ、謝るのは私の方よ。面を上げて下さい。あんな生意気な子に育ててしまった私が悪いのです。どうか、お気になさらないように......」



「では、解雇は......」



「そんな事有るわけ無いでしょ。あなたは長きに渡ってこの王家を支えてくれています。これからもここで頑張って貰わないと、私達が困ります」



「あ、ありがとうございます。ウッ、ウッ、ウッ......」



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