第10話 なに造ってんの?
それから30分も経っていないその頃、寝静まった『サマンサ村』では......
ギー、バタンッ。
しめしめ......マミーにもパピーにも見付からずに戻って来れたぞ。俺のこんな姿見られたら、たまったもんじゃねぇからな......よし、とっとと飲んじまおう。
トクトクトク......俺は、家を出る前に煎じておいた『薬』を一気に飲み干した。すると......ピキピキピキッ!
来た来た来たっ! って程の感触でも無いけど、全身がピリピリ痺れて来て、直線的だった身体がみるみるうちに、いつもの曲線へと変わっていく。そして、パコンッ! 突起物も一気に引っ込んでしまった訳だ。きっと、オリビア復活! そんな瞬間だったに違いない。
あいたたた......見れば左腕の傷からは、まだ血が滲み出て来てる。正直、あの時あたしは、無我夢中だった。だってそうでしょう?! いきなりグリズリーが現れたのよ! 誰だって必死になるわよ......
でもこんな傷で済んで良かったわ。あの時、あたしが死んでたら、あたしの命の恩人、イブさんもきっと殺されてたに違いないからね。
それにしても、何だったんだろう......あの力の源は? 夜になって薬の効力が落ちて来ると、あたしの身体は少し大きくなり、筋肉も膨れ上がる。かと言ってグリズリーの身体と比べたら、月とスッポンだ。
なのにあたしの身体は、そんな巨大な殺戮者達と互角以上の戦いを見せてくれていた。更に......今思い返してみれば、あの早い動きのグリズリーが、まるで止まっているかのように見えてた気がする。
もしかしたら......あたしの真の姿はオリバーなのではないか? 薬でオリバーに変身する事を防いでいたのでは無くて、むしろ、薬でオリバーに戻る事を防いでいたのではないか?......別に根拠の有る話じゃ無いけど、何となくそんな気がする。
変身したオリバーが、その身体以上の能力を発揮するのも、もしかしたら、薬の影響が有るのかも知れない。きっとマミーもパピーもそんなあたしの身体の秘密を知っている。12才の誕生日を迎えた頃から急に2人はソワソワし始めた。それが何よりの証拠だ。
それはそうと......パピーとマミーの部屋は今日も静か。最近、毎晩どこかへ出掛けてるみたいだけど一体どこに? あたしの身体の秘密と何か関係が有るの? 何もかも分からない事ずくめの無知なあたしがそこに居た。
一方、当の2人はと言うと、
トントントン......
カンカンカン......
「リラ、ちょっとこっち持っててくれ」
「はい分かった。で、そっちは大丈夫?」
「任せとけ!」
トントントン......
カンカンカン......
海岸から歩いてほんのちょっとのその場所は、まるで人目を避けるかのようにして出来た洞穴の中......
オリビアの『親』たるリラとポッカの2人が、夜な夜なこの洞穴を訪れる事は数多。何やら大きな物を造っているようだが、趣味なのか、仕事なのか、はたまた何か別の理由が有るのか?
その真意は定かで無いが、愛娘たるオリビアが12才を迎えたその頃から、夜な夜なトンカントンカン始めた事だけは間違い無かった。
「オリビアの為なら、え~んや、こ~ら♪」(ポッカ)
「もう1つお~まけに、え~んや、こ~ら♪」(リラ)
トントントン......
カンカンカン......
誰の目にも付かぬそんな夜の洞穴で、今日も子煩悩な2人は、寝る時間を割いてまで、精を出し続けるのであった。
じれったい! だから2人は一体何を造ってるのかって?......まぁ、現時点ではトップシークレット。じきに分かる事でしょう。クワバラ、クワバラ......