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第5話 油断してた

残った矢は5本か......まぁ、この先の山で最近、狼を見た事も無いし、まぁ大丈夫であろう。



パッカ、パッカ、パッカ......



ここのところ、すこぶる天気はいい。無数の星、それと満月が、見事なまでに松明の役目を果たしてくれている。視界は良好だ。



「さぁ、もう一回りしたら帰るからな。戻ったら腹一杯干し草を食べさせてやるぞ」



相棒の『ホース殿』の脇腹をパンパンッ! って叩くと、ヒヒーン!......まるで某の言葉が分かってるかのように、ホース殿は、嘶きで答えてくれた。



「今日も付き合ってくれて礼を申す。某はお主が大好きじゃ......」



決して『人間』には見せない真の笑顔を浮かべ、ホース殿の長い首に頬擦りをしたその時だった。



ブルルンッ。



ピタッ。



突然ホース殿は小さく身震いして、その動きを止めた。これまでホース殿は、目の前に狼が何匹現れようとも、決して慌てる事は無かった。それはきっと、某が直ぐに狼を退治してくれる事を知っていたからだと思われる。信頼関係ってやつじゃ無かろうか。


でも今ばかりは違った。明らかに怯えてる。裏を返せば、某に退治出来ない相手が迫り来てるって事になる......



なんじゃ?


なんじゃ?


なにか近付いて来てる?!



ガサッ、ガサッ、ゴソッ!


ガサッ、ガサッ、ゴソッ!



迫り来るその足音は、明らかに狼とは違った。重量感満載だ。しかも、そんな音は1ヶ所からだけじゃ無い。前からも、そして後ろからも......ゴソ、ゴソ、ゴソ......



グ、グリズリー?!



ちょ、ちょっと、困ったぞ!......矢は5本しか残って無い。しかも、狼を想定して作られた矢だから、グリズリーなんかの大型動物にはとても歯が立たない。大人の人間相手に、子供が輪ゴム鉄砲で戦うようなものではないか!



「ホース殿、静かにしたまえ! ここは動かずにやり過ごすのが得策である」



大丈夫......安心しろ。恐がらぬでよい......某はそんな気持ちを込めて、再びホース殿の首に頬擦りをして見せた。気持ちが伝わったのかどうか? ホース殿はみるみるうちに『静』なるオーラを醸し出し始めてくれる。



いいぞ......その調子だ。動かないでくれ。某も息を潜めるから......



やがて......その者達は現れた。前と後ろに1匹ずつ。残念だけどそれは予想に違わず、2メートルを超える巨漢、万物をも切り裂く鋭い爪、そして鋼鉄をも砕く大きな牙を持ち合わせた黒の塊だった。


グリズリー!!!


正面に立つその者は、月の灯りをバックに、ガルルルルッ......激しき殺気を放っている。更に背後からも、ガルルルルッ......『殺してやるオーラ』を、前後からふんだんに放ち続けている。


某もホース殿も、この時『石』に成り切っていた事は今でもよく覚えている。いくら食いしん坊のグリズリーだって、さすがに『石』は食べないだろう......単純にそんな発想から生まれた七変化だったに違いない。



3メートル......


2メートル......


1メートル......



気付けば......自分の3倍はあろうかと思われる大きな鼻が、某の顔の臭いをクンクンクン......興味津々に嗅いでいた。



くっさー!......



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