第4話 あたしの名はイブ
バサッ!
「それっ、もう1匹!」
バサッ!
「まだ居たかっ?!」
バサッ!
............
............
............
やがて......気配は無くなった。
これで全部か......ふうっ。
某は誰かって? この前『サマンサ村』のオリビアを助けた『ダーリン村』の狩人、イブでござる。
別に殺生が好きと言う訳では無い。更に言うと、狼が憎いな訳でも無い。ただ狼を退治する事が某の仕事であるが故、日常の如く馬に乗り、矢を放ち続けてるだけのこと。村人を外敵から守る......それこそが某の役目だ。
パッカ、パッカ、パッカ......
「お~い、イブ! どうだそっちの方は?」
「こっちはもう片づいた。この辺りはもう一匹も居ないのではないか?」
「おうおうおう......やっぱイブはすげ~な。10匹は始末したんじゃないか?」
正直、何匹仕留めたか? などと言う事に興味は無かった。従って数えてもいない。きっとそれ位の屍が転がっているからそう言ってるであろう。
「別に大した事では無い。これだけ毎日狩りをしてれば誰でも矢が当たるようになる。当たらないお主らの方が不思議でならぬ」
「ハッ、ハッ、ハッ、確かにイブの言う通りだ。多分、俺達の腕が悪いんじゃ無くて、矢が悪いんだよ。それはそうと......お前12才になったんだってな。どうだ? このバロン様と契りを交わさないか? 幸せにするぜ」
実際のところ、耳にタコが出来ている。12才になった途端、至るところから告られるようになってしまった。特にこのバロンと言う自惚れ屋は、質が悪い。
「某はな、某よりも強くて逞しい人間を好む。あいにく、誰1人として、そんな者はおらんようだ」
正直、某より強くて逞しい人間などは生涯現れないと思ってる。別に現れなきゃ生涯『家族』を持たずに死んでくだけのこと。少しは寂しい気もするが、妥協して『契り』を結ぶよりはましだ。別に焦ってる訳でも無いし......
本来ならば、『狩人』が『狩人』に告るなんて事は絶対に有り得ない。同じ『道』だから。でもみんな、某が『家を守る道』に入りたい事を知ってる。たがら、色目を使ってくる訳だ。
求めてもいないのに求められるから、どうしてもバリアーを張りたくなる。某のこんな変な言葉遣いも、そんなバリアーの一環と思って貰えば、きっと合点がいくであろう。
「イブより、強くて逞しい人か......そりゃあハードルが高過ぎるわ。お前は『オリーブ村』で一番のべっぴんさんだ。くれぐれも変な奴に絡まれんようにな。特に他の村の奴には気を付けろよ。契りを結んだりしたら、村の掟で厳罰になっちまうから。
よし......そろそろ真夜中だ。引き上げるとしよう。この先は『サマンサ村』のテリトリーだ。狼が出たとしても、うちらの知った事じゃ無い」
サマンサ村か......そう言えばあの生意気な娘は今頃どうしてるんだ? 初めて会った筈なのに、なぜだかそんな気がしなかった。それがどうも不思議でならない。某は考えた末......
「先に帰ってるがよい。某はもう少し弓の腕を磨いてから帰るとしよう」
結局、そう言う事にした。
「そうか......でもあんまり深入りはするなよ。最近、グリズリーが出るって噂だ。まぁ、遭遇してもイブなら大丈夫か......」
「グリズリーに出会って背中を見せたとあっては、イブの名に傷付く。その時はその時、確実に仕留めてみせる。お主らの心配には及ばぬ」
「分かった......じゃあ俺達は先に村へ帰ってるからな。もうすぐ夏祭りだし、怪我なんかしたら祭りに出れなくなるぞ。十分気を付けろよ。それじゃあ健闘を祈る。バロン様の大事なイブちゃん!」
パッカ、パッカ、パッカ......
『狩』仲間達は、自分に向かって軽く手を振ると、蹄の音を奏でながら暗闇の中へと消えて行った。
全く......とにかく厚かましい奴だ......
さぁ、気を取り直してもう一働きでござる!




