第3章 イブ 第1話 なんか、おかしい?!
それから何日が経ったある日のこと......
「うわぁ、気持ちいい......パピー見て! カモメがいっぱい飛んでるよ」
あたしは思いっきり興奮してた。なぜなら本当に気持ち良かったから。
「オリビア、これが『海』ってやつだ。でっかいだろう」
「パピーったらずるい! いつもこんな素晴らしい所に1人で来てたのね!」
「おいおいおい......別に遊びに来てる訳じゃ無いんだぞ。毎日、魚を取りに来てるんだ。どうした......お前も漁師になりたくなったか?」
あたしも楽しいけど、パピーも楽しそうだった。いつも1人で海に出てるから、きっと寂しかったんじゃ無いかな。今日はあたしが無理言って、漁に連れて来て貰ったの。自分の知らない世界って興味有るもんね。
マミーはちょっと心配してたけど、あたしは12才。この間、無事に誕生日だって迎えたんだから。もう子供じゃ無いわ。
そうそう......時の流れは早いもんで、あのイブって人に助けられてから、もう随分経つ。それからは別に何も変わった事は起きていない。誕生日会の時も、マミーはご馳走をいっぱい作ってくれて、あたしの『大人仲間入り』を祝福してくれた。
以前パピーが、12才になるあたしの話をした時、マミーは凄い悲しそうな表情を浮かべてたけど......あれは一体何だったんだろう......きっとパピーが言ってたように、子供のあたしが見れなくなる事に寂しさを感じたのかもな......多分そうだと思う。
それと話は変わるけど......最近ちょっと気になってる事がある。それは『子供』から『大人』に称号が変わっただけじゃ無くって、身体も『大人』になりつつあること。
そんなの当たり前の話なんだけど、あたしの場合、ちょっとみんなと違う所がある。『赤飯』を炊いた時期とか、身体が曲線化し始めた事に関しては、他のみんなと変わんないだけどね......
顔から毛が生えて来るのはなぜ?
おしっこする時、立ったまましたくなるのはなぜ?
やたらと重い物が持てるようになったのはなぜ?
正直、今あたしの中では、そんな事が完全なコンプレックスになっちゃってる。マミーが昔言ってたあたしに宿ってる生まれつきの『病』のせい? なんて勝手に関連付けたりもしてみるけど、薬は1日足りとも欠かした事は無い。それと実は、もっと気掛かりな事が有る......
「でっけ~な、海ってやつは?! なぁ、パピー!」
気を抜くと、すぐにそんな乱暴な言葉が飛び出してしまう。もしかして、俺は......いやいや、『あたし』は重症なのかしら?
と言う訳で......毎朝のコソコソ『ヒゲソリ』が日課と化している純粋なる乙女、あたしオリビアだった。
「別に漁師になりたいって訳じゃねぇんだけどよ......じゃ無くって、漁師になりたい訳じゃ無いんだけど......俺は、もといあたしは海が好きなだけなの。この海の向こうには一体何が有るんだろう? そう考えてるだけでワクワクして来るぜ。なぁ、パピーもそう思わねぇか? い、いや......何でも無いですわ。ホッ、ホッ、ホッ......」
やっぱあたし、なんかおかしい......こんな乱暴な言葉使った事無いのに......口が勝手に動いちゃってる。
一方、パピーはそんなあたしの『おかしさ』に、気付いているのか、いないのか? 実にあっけらかんとしていた。
「やっぱオリビアは、家を守るようなタイプじゃ無い。こうやって家の外に出て働く方が向いてるんじゃ無いか? まぁ、オリビアの人生だ。自分で一番あった『道』を焦らずゆっくり考えるる事だ。パピーもマミーも、お前が一番幸せになる事を望んでるからな......」
「有り難う......パピー」
もしかしたら、パピーの言う通りかも知れない。さっきから一生懸命魚を釣ってるパピーにも憧れるし、それと何よりも......あたしを助けてくれたあの人の勇姿......それが1日足りとも頭から離れる事は無かった。やっぱあたしは、家の中で籠ってるタイプじゃ無い......外へ出る『道』。それがきっと天職だ......