第7話 うぇ~ん......
今つくづく思った......馬と言う乗り物は、何てこんなに早いのだろうと。あっと言う間に見慣れた『サマンサ村』の灯りが視界に飛び込んで来る。
「さぁ、お主の村に着いた。早く家に帰って寝るがよい」
何だか知れないけど、あたしは無性に腹が立っていた。同じ年頃のこの人に比べて、あたしは何でこんなに情けないんだろう......って。世間知らずで危険な夜の森に入り込んだだけならまだしも、赤の他人のこの人に迷惑掛けちゃって。挙げ句の果てには......
「助けてなんかくれなくたって、あたしは1人で帰れたんだから! あたしを『馬鹿』ですって?! そんな事あんたに言われたく無い!」
命の恩人に、そんな悪態をついてしまう未熟なあたしだった。
「ハッ、ハッ、ハッ、元気なのは良い事だ。だだ森で遊ぶのは明るい時だけにしておけ。次は誰も助けてくれぬと覚悟しておくが良いぞ」
さらりと交わされてしまった。この余裕って言うのか、落ち着き払ってるって言うのか......この年期の入ったオーラは一体どこから出て来るんだろう?
見た目、凄い若く見えるんだけど......いくつなんだろうか? まさかあたしと同い年なんて言ったら笑っちゃう! と言う訳で、ストレートに聞いてみた。
「ちなみに、お姉さんいくつ?」
「今年で12じゃ。それがどうかしたか?」
やっぱ、聞くんじゃ無かった......
すると、
「お前......その左おでこのアザはどこで作ったんだ?」
なんと突然そんな事を聞いて来た。どうやらこの人も、あたしのおでこに出来たアザに気付いていたようだ。
「『こうのとり』様に連れて来られて来た時にはあったらしいけど......それがどうしたって言うのよ?!」
未だに素直になれない自分にいい加減、嫌気が差してくる。一度怒り口調になっちゃったからには、もう元に戻せないじゃん!
「別に......何でも無い。某は『ダーリン村』の狩人、名はイブと申す。お主は?」
「あたしは......『サマンサ村』のオリビア。別に覚えてくれなくってもいいからね!」
「オリビアか......中々可愛い名前だ。それでは失敬!」
パッカ、パッカ、パッカ......
「ちょ、ちょっと可愛い名前って!......」
あっさりと自分に背を向け、颯爽と過ぎ去って行く『ダーリン村』のイブだった。
あらら......居なくなっちゃった。それにしても......やたらと気になるな......このイブと言う名の『狩人』の事が。多分あっちもあたしの事が気になってたんじゃ無いかしら......別に変な意味じゃ無くてね。
まぁ、隣村だから......また会える時が来るでしょう......その時は、もっといっぱい話をしてみよう。今日みたいなケンカじゃ無くってね。
さぁ、某も帰ろう......ありゃりゃ、言葉が移ってる。
ザッ、ザッ、ザッ......
あたしは気を取り直して、未だぬかるんでる小路をゆっくりと歩き始めた。
すると......
「あっ、あなた! オ、オリビアが居ましたよ! オリビアが帰って来ましたよ!」
「おお、居たか! よ、良かった......」
あたしには、あたしを必要としてくれる『家族』があった。そして、あたしの事をいつも心配してくれる優しいパピーとマミーが居てくれた。
「うぇ~ん......怖かったよ」
そんな2人を見た途端、自然と涙が溢れ出てくる。今日1日の反省......それは、大好きなパピーとマミーに心配を掛けたこと。悔い改めよう......あたしはマミーの腕の中で、そんな事を誓ったのだった。