第2話 サマンサ村のこと
薬の話をする前に、この『サマンサ村』の事をちょっと話しておこうと思う。
因みに......この家には、あたしが居て、『マミー』が居て、『パピー』が居る。
そこで、えっ? 『パピー』ってなに?......きっと、誰もがそんな疑問を抱いたんじゃ無いかな?
『サマンサ村』では生まれて10才までに、これからの人生をどう生きていくか、2つの選択肢が与えられる。1つはマミーのリラのように家を守る道。それともう1つがパピーのボイルのように家の外で働く道。
途中で変える事も出来るけど、10才までに決めたその『道』を生涯全うする人が多いみたい。几帳面で繊細な人は家を守る道を選び、大雑把でアバウトな人は、外で働く道を選ぶ人が多いかな。体躯的に得意不得意も有るしね。
それで15才になると、気の合ったパートナーと共に『家庭』を築く事が出来るの。もちろんパートナーの組み合わせは、それぞれ別の『道』を選んだ人同士。同じ道同士の人がパートナーになっても、『家庭』が成り立たないからね。
そんなパートナー同士が『家族』の契りを結ぶと、今度はお待ちかね、子供を授かる事が出来るの。とは言っても、『こうのとり』様は気まぐれでやって来るから、1年待ち、2年待ち何て事はよくある話よ。
この『オリーブ大陸』には、あたしが暮らす『サマンサ村』以外に、西の遊牧民族『タバサ村』、北の狩猟民族『ダーリン村』、それ以外にもいくつか有るけど、この『家族』の制度に関しては、どこの村も同じみたい。
そうそう、1つ重要な事を言い忘れてたわ。パートナー選びの事なんだけど、契りは必ず同じ村の人間と結ばなきゃならないの。
聞いた話によると、過去に『サマンサ村』の人間と『ダーリン村』の人間が契りを結ぼうとした事があって、その後どっちの村に住むかで大揉めになったらしい。『こうのとり』様は、限られた人数しか子供を運んで来てくれないから、村に取って村人が1人減る事は死活問題なの。互いの村が意地を張って戦争になる1歩手前までいったらしいよ。
今でこそ、『サマンサ村』と『ダーリン村』は友好関係にあるけど、この『契り』に関してはそんな過去もあってか、今でもピリピリしてるみたい。隣の村同士なんだから、仲よくやって行きたいよね。『サマンサ村』とパピーとマミーに関しては多分それくらいかな......
あっ、そうだ。飲まなきゃ! あたしは、夕食前に湯で煎じておいた『薬』をトクトクトク......カップに注いだ。すっかり冷めてるけど、効力に影響は無いそうだ。それで、ゴックン......一気に飲み干した。
別に甘くも無ければ苦くも無い。不味くも無ければ美味しくも無い。飲みごしに刺激は無いんだけど、飲んだ後は必ず全身がピリピリ......神経が刺激される。薬が身体全体に何か大きな作用を施している事は間違い無いと思う。
あたしは物心ついた時から、寝る前に必ずこの『薬』を煎じてを飲んでる。マミーが言うには、あたしの身体は先天性の『病』が宿っていて、これを寝る前に飲まないと死んじゃうらしい。死ぬのは嫌だから、マミーの言い付けを守って、毎晩欠かさず飲んでるわけ。
この『薬』は『めしべの奇跡』と言う花から出来てるの。『めしべの奇跡』は『ダーリン村』のすぐ近く、ポロロッカ山の麓へ行けばいつでも摘む事が出来るんだけど、日持ちがあんまよく無いんで、摘み貯めが出来ない。だから最低でも1週間に1回は摘みに行かなきゃならないの。
あらら......もう薬のビンが空になっちゃった。明日の夜の分が無いな......因みに明日は1日中、夏祭りの準備だ。山に行く時間は無い。どうしよう?......
今何時? 9時か......外は真っ暗。夜の森は何が潜んでるか分からないから、絶対入っちゃダメ! ってパピーから厳しく言われてる。でも、夏祭りの準備は随分前から言われてた事だから、今更出れない何て言ったら怒られる......
仕方ない! ちょっと今行って来よう......死にたく無いから!