第2章 オリーブ大陸 第1話 バロック家の人々
やがて春が訪れると、大地は緑一色に染まり、夏になる頃には見事なまでに、七色の花で埋め尽くされていく。
そして秋になればオレンジ色に衣替えした木々の葉が、その後訪れる白銀なる冬の到来を知らせてくれる。
春、夏、秋、冬......そんな季節の衣替えが、12回も繰り返された頃にもなると、当初老人だった者はバーバの如く土へと帰り、若年だった者はリラの如く家族を構え、そして赤子もまた、例外無く大人の仲間入りを果たしていった。
「うわぁ、今日はごちそうだ! マミーありがとう!」
ラム肉ステーキ、キノコのソテー、野菜たっぷりコンソメスープ......どれもあたしの好物ばかり。あらら......ヨダレが......
「オリビアは本当に食いしん坊だな。最近腹が出てきたんじゃないか。ハッ、ハッ、ハッ」
パピーだって食いしん坊じゃん! 顔が嬉しそうだもん。きっとあたしと同じで肉に餓えてたのね......
そうそう......あたしの名はオリビア。オリビア・バロックよ。マミーはリラで、パピーはボイル。バロック家は、この3人で成り立ってるの。つまりあたしは一人っ子って事ね。
因みにもうすぐ12才になるあたし。12年前、この『サマンサ村』に『こうのとり様』が、落下傘でパァッと落としてくれたってこと。
『バロック家』で今あたしがすくすく育っていられるのも、この2人があたしのマミー役とパピー役を買って出てくれたおかげなの。だからあたしはこの2人が大好き!
「そう言えばオリビア......お前そろそろ12才の誕生日だったろ? 何か欲しい物でも有るのか?」
話好きなパピー、今度はそんな話をふって来た。
すると、
パリ~ンッ!
えっ、どうしたの?! 慌てて振り返ってみると、マミーが手に持ってたお皿を落として顔を青くしている。普段そんな粗相をするマミーじゃ無いのに......一体どうしたって言うのかしら?
「今そんな話する事無いでしょ!」
マミーの手はブルブルと震えていた。
「おいリラ......」
「マミー......」
正直、マミーが何でそんな反応を見せたのか、意味が分からなかった。あたしが12才になっちゃいけないって言うの? なんて......変な事を考えたりもする。
「い、いいえ......ごめんなさい。そうね......オ、オリビアはもう12才になるのね......」
「うん、そうだよ」
「おめでとう......」
「ありがと......」
なんか......楽しい筈の夕食が突然お通夜みたいになっちゃった。その後も、パピーが何を話し掛けてもマミーは上の空。結局その日の夕食は、そんなしらけムードのまま、あっさりとお開き。がっかりだわ......
やがてマミーが食器を片して洗い始めると、あたしとパピーの2人だけになった。
「ねぇパピー......マミーどうしちゃったんだろう?」
正直、マミーのあんな悲しそうな顔を見るのは初めてだ。何か心配になって来ちゃう......
「きっとお前にいつまでも子供で居て欲しいんだろう......大人になると思ったら寂しくなったんじゃないか? まぁ、大丈夫だからあまり気にすんな。それより明日も早いんだ。部屋に戻って今日は早く寝ろ」
「うん......分かった」
「それと......寝る前にちゃんと薬煎じて飲むんだぞ」
「分かってるよ......生まれてから1日も欠かした事無いんだから......そんなの忘れる訳無いでしょ」
「分かってればいい......それじゃあお休み、オリビア」
「お休みなさい......パピー」