第17話 赤い壁?
バサッ......
ザクッ......
ズボッ......
あちきの振りかざす剣が、これ程までに切れた事は無い。多分、目の前に現れた『希望』と言う名の妙薬が剣に注がれたのだろう......次から次へと現れる敵兵を、片っ端から斬り倒していった。
そんなマルタの戦い振りを見ていたジャックは、すかさずアダムに耳打ちする。
「マルタの剣は全て急所を外してます。なかなか......やりますね」
「ああ......人を許すって事は、殺すよりも勇気のいる事だ。俺の目的は、この星に暮らす全ての人間との共存だ。殺戮はまた新たな殺戮を生み出していく。そんな負の連鎖はいつかどこかで断ち切らなきゃならん」
やがて......
アダムの前に舞い戻って来たマルタは、とてつも無く重要な事を語り始めた。その内容は、正に悪夢......信じがたいような事実だった。
「ゴーレム国の兵が、大挙して押し寄せて来ます! 奴らはこの大陸の人達を皆殺しにするつもりです!」
「なっ、何だって?!」......(モニカ)
「皆殺しだとっ?!」......(ジャック)
「はい、直ぐに向かえ討つ準備をしなければなりません」
......(マルタ)
「それで......奴らはいつやって来るの?! 秋か? 冬か?」
......(モニカ)
「残念ながら......」......(マルタ)
「残念ながら?!」......(ジャック)
「それが......」......(マルタ)
「それが?!」......(モニカ)
「それが......3日後......なんです」......(マルタ)
「「「3日後?!」」」......(アダム・モニカ・ジャック)
どうやら......マルタの話は本当らしい。1,000人の強者達が最新式の武器を持ってやって来るそうだ。本来なら、大陸内で戦ってる場合じゃ無い。
全ての民が一丸となって『ゴーレム国』の兵隊を待ち受けなきゃならない。でも残念ながら、この大陸の民を一つにまとめてる時間などは無かった。
ならばどうする? どうする? どうする?!......このままじゃ、3日後には間違いなく全滅だ。
俺は丘の上に駆け上がって海を見詰めた。『ゴーレム国』の兵は、この海の向こうからやって来るんだろう......
気付けば俺の前髪は、東南から吹き付ける生暖かい風になびいていた。
「アダム様、ここに一つ、策が無い事も無いかと思うのですが......」
ジャックが不適な笑みを浮かべながら、語り掛けて来た。
「あたしも一つ試してみたい策が有るのですが......」
モニカがジャックに続く。
「実はな、俺もこの海を見てて思い付いた事が有る。そうか......ジャックとモニカも有るんだな。よし、それぞれ思い付いた策を紙に認めてみようじゃないか」
「それは面白い。では、早速書いてみましょう」
と言う思い付きの流れで、俺達3人は頭に描く勝利の方程式を紙に認めた訳だ。
「それじゃいいか? 一斉に見せるぞ。せ~の~、えい!」
モニカ......『火』
ジャック......『火』
アダム......『火』
それはまるで、割札を合わせたかのよう一幕だったに違いない。
「はっ、はっ、はっ......全会一致だな。それはそれで良しとして......問題はどうやってその『火』を用いるかだが......」
「因みに......マルタがこっちに寝返った事など、敵は知るよしも無いですよね?」
「確かに......」
「何とかなるかも知れないっすね。この東南の風......半端無いっすよ」
「よし......策は決まった。もうやるしか道は無い。準備期間はたったの3日だ。戻って準備に取り掛かろう!」
「「「了解!」」」
それから3日後、この海に炎の『赤い壁』が立ち上がれば、それはアダム達の勝利を呼び込む事となる。果たして、そんな思惑通りに事は運ぶのか否か......現時点でその答えを知る者は『神』のみ。人間ごときに計り知れる事では無かった。