第13話 そんな筈じゃあ......
「そうか......それがお前の出した答えなのじゃな......残念だ。ならば、わしも覚悟を決めるとしよう」
バサッ!
気付けば、バーバ様も剣を抜いていた。正直、こんな怖い顔したバーバ様を見るのは、生まれて初めて。勿論、凄い怒ってたと思うんだけど、その表情には怒りの感情よりも、悲しみの方が多かったような気がする。
そんなバーバ様の表情を見た途端、今更ながら我に帰る優柔不断な私がそこにいた。
ちょっと待ってよ......なにこの展開? これから私とバーバ様が決闘するってこと? 私がバーバ様を殺すなんて有り得ないし、逆にそうしなきゃ、私が殺されるって事でしょう?
私が殺されるだけだったらまだしも、その後この子の命までもって流れじゃない......それって、どっちも無理......一体どうしたらいいのよ?!
ダメだ......バーバ様、すっかり戦闘モードに入っちゃってる。当たり前だよね。バーバ様は、村人全員の命を守らなきゃならない立場。私情に囚われてる場合じゃ無いもんね。
そうだ! バーバ様を殺す事無く、私もこの子も死なないで済む方法が一つだけ有った!
この子の平和な顔を見ていたら、突然思い付いてしまった。かなり原始的な方法だけど、もうこれしか無いでしょう。
その方法はと言うと......
「バーバ様、さようなら!」
と言う事で、私はバーバ様に背を向け、一目散に逃げ出したのだった。
するとバーバ様は、
「リラ、待て! 待つんじゃ! その子はダメなんじゃ! 絶対に......うっ、ううっ......」
なんと、胸を両手で押さえて倒れ込んでしまった。そんなバーバ様の様子を見て、これこそ神が与えてくれた千載一遇のチャンス! 一気に逃げ失せてしまおう!......などとクールに成り切れれば良かったのかも知れないけど......
虫1匹殺した事の無い私が、突然そんな極悪非道人間になれる訳も無かった。だったら、腰にぶら下げてる剣は何なのかって? 正直に言います......ただのファッションです。
「バ、バーバ様!」
私はまたしても、無意識のうちに駆け出していた。苦しみ悶えるバーバ様の元へ......
そんなバーバ様は、心の臓に爆弾を抱えている事を私は知っていた。御年90と言う事もあって、そんな臓器が著しく弱ってるらしい。
感情が高ぶらせると身体に障る......それは晩年、バーバ様が口癖のように言ってた事だ。きっとこの時、バーバ様は心臓発作を起こしていたのだろう。
「うっ......ううっ......」
「バーバ様! バーバ様!」
何の医学的知識を持たない私に、今出来る事があるとしたら、それはバーバ様の名を連呼する事くらい。他に何も出来やしなかった。
「リラ......ど、どうしても......その子を育てたい......のか?」
バーバ様は本当に苦しそう。私にそんな言葉を掛けるのも、やっとだったと思う。
「はい......」
本当は、いいえ......と言わなきゃいけなかったのかも知れない。だって......分からず屋の私のせいでバーバ様はこんな事になっちゃったんだから。でも、言えなかった......自分の気持ちに嘘を付く事はどうしても出来なかった......